Energy

 無愛想な上に素っ気無い。
 タイラントの性格を言い表そうとする者のほとんどは、そんな、どう考えても類義語だろう、という言葉を重ねた。
 それは最前線においても変わりない。
 当人は、他人が自分をどう言うかなど、気にしないようにすることに慣れている。
 聞こえてくるのがその程度の言葉ならば、どうとでも無視できた。
 ちなみに、そんなタイラントと組み、平気であれこれと罵り合っているヤンについては、これは本人が極めて不服に思っているのだが、「般若」という嬉しくない愛称(?)がまかりとおっている。

 だから、それは事件だった。
 朝、出立の準備を整えていた時、いきなりタイラントが声を立てて笑い出したのだ。
 それにはヤンでさえ目を丸く見開いてしばし呆然としたのだから、他の者など、バグでも出たのかと疑ったほどだ。
「ちょっとちょっと! どーしたのよ!? とうとうウィルスでももらっちゃった?」
 我に返ったヤンがタイラントの腕を引っ張る。
 それに、タイラントは声を上げることはやめたが、やはり笑っていると分かる音声で、
「なんでもない。とっとと準備しろ。そっちの用意ができ次第、発つぞ」
 やけに上機嫌に言い捨てた。

 朝、タイラントがなにげなく、本部から新たな情報でも届いていないかと操作したPPC。
 ふとした気まぐれでチェックしてみたメール。
 そこに、ずいぶんと遅い時刻表示と共に、弟の名があった。
 何か報告しなればならないような事態にでもなったのか、と深刻になり、メールを開いてみて、笑った。
 いかにも彼らしくて、笑わずにはいられなかったのだ。
 その裏にどれほどの思いがあるのか分かっていればこそ、笑って誤魔化さずにもいられなかったのだ。

 

 元気ですか?
 もっとも、部隊が全滅したとでも聞かないかぎり、
兄さんがどうにかなったとは思いませんが。
 あまり我が儘言って、ヤンさんを困らせないこと。
 怒らせたって、助けてあげられないんですからね。

 明日から次の地区に入ります。
 なかなか大変ですけど、なんとかなるでしょう。
 暇だったら返事くださいね。


RAVEN

 

 たったそれだけの、短いメール。
 レイヴンの送られているCエリアの状況を思えば、のんきとしかいえない内容。
 言葉にはならなかったが、彼がこんな内容のメールを送ってきた気持ちは、何故か分かるような気がしたし、それで当たっているだろうとも思った。

 何か不気味なものでも見るかのように自分を窺いつつ、言われたとおりに出発の準備を整えているチームメンバーには気付いていたが、気にはならなかった。
 彼等から少し離れたところで、外部端子からAIにPPCを直結する。
 返事に何を書くかはもう決まっている。
 そして、それを受け取ったレイヴンがやはり笑うだろうことも、分かっている。
 だが、ただそれだけだろうが、それで充分だということも確信している。
 充分どころか、必要な全てなのかもしれない。

 淡々と続く戦闘の日々に、心から笑う者もなくなったこの場所。
 いくら充填してもエネルギーは常に欠乏しているようで、全力で戦っていてでさえ、何かが空回りし、燃え残るような毎日だった。
 だが、どうだろう。
 今は指先にまで力を感じる。
 今なら、昨日は撤退を余儀なくされたヒルデルトの亜種と、対等に戦えるだろう。
 そして、負ける気はまるでしない。

「ターイラーン、いくわよーっ」
 準備ができたらしいヤンの声を聞いて、タイラントはメールを送信した。
 受け取ったレイヴンはまず間違いなく笑うだろう。
 あらためてそう思うと、声には出さないし顔の何が変化するでもなかったが、思わず笑わずにはいられないタイラントだった。

 

 

うるさい。


 

 

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