桜の枝を、窓際に置く。
 赤石が振り返ると、伊達はもう既に衣服を捨て去っていた。
 恥じらいも躊躇いもなく、真っ直ぐに堂々と立つ様がいかにも伊達らしい。
「そこ座れよ」
 伊達が薄く笑って、頑丈な椅子を目で示す。
 赤石が言うとおりに腰掛けると、思ったとおり、伊達はその足の間に膝をついた。
「珍しいな。嫌いじゃねえのか? こういう、一方的に奉仕させられてるみたいなのは」
「嫌いに決まってる」
「なら、どうした?」
「おまえには、してもいいと思っただけだ。赤石。俺を、飼い慣らせるか?」
「獣かおまえは」
「違うか?」
 見上げて笑う、挑戦的な眼差し。
 たしかに、獣かもしれない。
 傲慢で身勝手で、獰猛な上に狂暴。
 だが、可愛い獣だ。

 赤石が笑うと、伊達も笑い返して、ベルトを噛んだ。
 器用に、口だけで外していく。
 どうやらそういうシチュエーションで楽しみたいらしい。
「獣だってんなら、人間様の言葉は喋るんじゃねえぞ?」
「なんて鳴けってんだ? ニャアとでも?」
「おまえが猫なんてタマか。いいトコ虎かライオンか。豹かもしれねえが。あれこれ言わねえで、啼いてだけいろってことだ」
「フフ……」
 取り出した赤石自身を、伊達は舌を出して舐め上げた。
 何処で覚えたのか、あれこれと技巧を知っている伊達だが、今日は手を両方とも床についてしまい、面白そうに遊んでいる。
 猫の子か虎の子かはともかく、可愛いペットがじゃれついているのだから、撫でてくらいやったほうがいいだろう。
 その手を感じて、伊達は鳴き声は出さない代わりに、赤石のそれに頬をすり寄せた。
 大好き。
 そう言われたような気がして、赤石の口元に苦笑が浮かぶ。
 ともすると、プライドの塊というか権化のようなこの男は、こういう遊びにしなければ、本音を語れないのかもしれない。

(俺だけの獣)
 髪を手櫛で梳いて、傷跡の触れる頬を撫でる。
 途端、いきり立った先端を軽く噛まれた。
 小さいが、火花でも触れたような痛みだ。
「この……」
 悪戯はするな、と腕をとって抱え上げ、足の上に跨らせ、倒れないように片手を背に回す。
 伊達がしっかりと首に掴まったことを確かめて、鎖骨を噛んだ。
「……っ」
 ガリ、と音がして、微かに血が滲む。
「お仕置きしてやらなきゃならねえのか?」
 小生意気な獣は、できるものならしてみろと言わんばかりに笑う。
 けれどそれが、一番魅力的な表情かもしれない。
 傷を舐めてくれ、と赤石の顔をそこに抱く。
 自分でつけた噛み跡に、赤石は丹念に舌を這わせる。
 鎖骨は、実は伊達のかなりのウィークポイントだ。
 乱れた呼吸が耳元に渦巻く。
 それを心地好く味わいながら、赤石は背後に回した手を、伊達の望むところへと、彷徨わせ始めた。

 
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