VARISTA MASTER

「ねえねえねえ」
「む? なんだ?」
 寄って来た小柄なフォマールを、ユーサムが見下ろす。
「あのさ、あたい、どーしても気になってたのよね」
 あまり話をしたことのない相手、というだけならともかく、ノースユーロNo.1とまで言われたレンジャー相手にいきなり話し掛けるとあっては、さすがに彼女も遠慮があるらしい。ヤンはユーサムの返事を待つ。
「なにがだ?」
「んとさ、なんでアン……ユーサムさんって、ヴァリスタしか使わないわけ?」
 ついいつもの調子になりそうなのを無理に我慢したのが可笑しかったのか、ユーサムは軽く体を揺する。
「ユーサム、でいいぞ。さん、などとつけられると、かえってくすぐったいからな」
 ユーサムがそう言うと、ヤンはほっとしたようだった。
 答えて、という意思一杯の大きな目を上に向けてくる。

「そうだな。今はワシらレイキャストとヒューキャストの差も小さくなってきとるが、昔はもっとすごくてな。ヒューキャストといえば、タイラントのようなタイプばかりだった。自信家で、好戦的で、大柄、とな。もちろんパワーもすごいが、その代わり演算能力……なんというか、考えるのは苦手な奴等ばかりだった」
「へえー」
「組むヒューキャストときたらそんな奴ばっかりだろう? はっきり言って、ワシがエネミーにダメージを与える必要なんてない。だからといって、いてもいなくても同じ、ただ状況を知らせるだけでいい、なんていうのでは、あんまりにもつまらん」
「うんうん」
「だから、ワシにできることはないかと探して、その結果、見つけたのがこれだ」
 ユーサムは、愛用のヴァリスタが入っているデータバッグを叩いた。

「強い銃器を手に入れることも、できないわけじゃなかったが、それでパワーを補って、誰も彼もがエネミーを倒すことだけに必死になったんじゃ、かえって危ない気がしてな。ワシは、倒すためじゃなく、仲間を守る……いや、こういうとえらく格好つけてるみたいだが、なにかこう、もっと戦いやすくしてやれんかと考えた。ヴァリスタは、威力こそ大したことはないが、弾のフォトン波が、麻痺性の効果を持っとる」
「うん、それは知ってる。でも、麻痺って、それで止まってくれるわけじゃないじゃない? 少し遅くはなるけど、ちゃんと動いてるしさ」
「うむ。だがな、その『少し』が生死の分かれ目になることもある。それに、少し専門的な話だが、ヴァリスタのフォトンマガジンは、一番改良が早く進んでいるんだぞ」
「へえぇ」
「今では、だいぶ強い麻痺効果を、それもたいていの生物に与えられるようになっとる。それにな、敵のことをよく調べてさえおけば、弱点が分かる。皮膚の弱いところを狙って撃ちこめば、時にはそれで一発で心臓を停止させることすらある」

「うっそ!? そんなの初めて聞いたわよ!?」
「ワシも、まだ2度しか巡りあったことはない。いろんな要素が絡み合うんだろうな。そこをほんの少し麻痺させることで、生命活動そのものを停止させてしまう、ということなんだろうが……。もし狙ってこれができるようになれば、それこそ一発でどんな敵も仕留められる。もちろん、それは相当難しいし、まず無理だろう。が、無理でも、近づこうと努力はできるし、ワシはそれが面白くてな」
「あ、それそれ、その気持ち、あたいもちょっと分かる。できるかもしんないけどできないかもしんない、ってなると、どーしてもやってやりたくなるのよね。ホントにできることなんて、そんなに期待してないけどさ、できたらいいなって」
「だろう? それにな、やっぱり、あれが一番きいたな」

「あれ?」
「気付いてくれた仲間がいたことだ。だいぶ年かさのフォマールだったが、ワシの援護のおかげでずいぶん楽に片付けられた、ほんの少し、意識を集中する時に余裕があるかどうかで、終わった時の疲労感は全然違うんだ、とな。そう言われた時、ワシのやっとることは無意味じゃないし、気付いてくれる人は気付いてくれるもんなんだ、とな。いや、さすがに誰にも気付いてもらえんのは、寂しいからな」
「あはははは。そうよね。せっかく一生懸命やってるんだもんね。そっかー。なるほどねー。あたい、まだアンタと一緒に仕事したことないけど、一緒にすることあったら、よーく比べてみるわ。俺も俺もなレンジャーとどう違うのか」
 ヤンは疑問の答えを手に入れて、嬉しそうな笑顔を見せた。
 ユーサムは内心、「さて、これはあの娘とやる時はヘマはできんぞ」、と苦笑するのだった。


(END)