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 ドアの両側には、一人ずつ、銃器を携えた軍人が立っていた。
 正面の重厚なデスクの向こうには、椅子にかけた壮年の男。
 それから、そのデスクの前に、黒いボディのヒューキャストが一人。
 アンドロイドは外見の個体差が小さい。
 全く同じモデルの者もあるが……彼は、あの時大男の相手をしてくれた、あのヒューキャストではなかろうか。
 漠然と感じる気配が、同じものに思える。

「ほう。面白いこともあるものだな」
 我等のほうを振り返ったヒューキャストが、低音でそう言った。
「やはりおぬし、あの時のヒューキャストか」
「まあ、な」
「おい貴様等、無駄口をたたくな」
 ドアの右側の軍人。
 と、
「うるっさいわね! ちょっと喋ったからってなによ!」
 まったくこの娘、事を荒立てずにおけぬのか。
 小娘に食ってかかられて、まともに相手をするほうが大人げないと思ったのか、無愛想な軍人は、鼻を鳴らしたきり、視線を逸らしてしまった。

「これで揃ったな。各個、ハンターズ登録ナンバーと所属、姓名を申告しろ」
 ……主以外の者の命令口調は、好かぬ。
 好かぬからと言って―――。
 我は娘の肩を掴み止めた。
 この娘のように、いちいち食ってかかるほどのこともない。
「おまえからだ」
「登録ナンバー66645、所属PURPLENUM、ロアだ」
 淡々とヒューキャストが告げる。
 視線だけで無遠慮に促されて、娘はいかにもむっとした顔になる。
「ヤン=メイファ。登録ナンバーは80938。所属はVIRIDIA。なによ、分かってて呼び出したくせにさ。どうせそこに書類あるのに……」
「よさぬか。本人であるかの確認のためだ。ジーン=M=クガ。登録ナンバー93652、所属はGREENNILLだ」
「ふん、まあいいだろう」
 その言いようを聞くなり、ヤン=メイファの顔がいっそう険しくなる。
 ほとんど感情を動かさないヒューキャスト、ロアとは対照的に、実に感情変化のはげしい娘だ。

「諸君らを召喚したわけについては、各自見当もついているだろう。先日、ラグオル地下で起こった爆発以来、パイオニア1の住民との連絡がとれなくなっている。軍部から調査隊を派遣したが、いかんせん、このパイオニア2には軍備も乏しく、実戦経験の豊富な軍人も少ないのだ。そこで、諸君ら優秀なハンターズの力を借りたい」
 「優秀な」か。
 言葉の裏に侮蔑が感じとれる。
 感じとらせるために、あえて隠さぬのであろうが。
「ラグオルに何が起こっているのか、それを調査してもらう」
「ちょっと待ってよ」
 黙っていれは良いものを、ヤン=メイファが口を挟んだ。
 相手が不快な顔をするのにも構わず、続けて言う。
「実戦経験のある軍人ってさ、なんで? ラグオルって、やばいことないんじゃなかったの?」
「パイオニア1からの報告では、そうだった。だが、調査隊の報告によれば、地表には凶暴な原生生物が徘徊しているそうだ」
「なに、じゃああたいたち、先に行った奴等に騙されたの?」
「そのあたりの詳細と真実が分からんから、調査をしろと言っている。言っておくが、諸君らに拒否権はない。これは政府からの正式な指令だ」

 それを最後に、話は済んだとばかりに追い払われた。
「なによ、あったま来るわね」
 ヤン=メイファがドアに向かって舌を出す。
「能のない奴ほど威張りたがるものさ」
 さらりと辛辣なことを言ってのけて、ロアが軽く肩をすくめた。
「それはそうだろうけどさ、気分悪いわよ」
「聞き流しておけ。バカの相手を真っ向からするほうがバカだ。それより、どうやら俺たちは話の途中で追い出されようだな」
「え? そうなの?」
「ただあれだけの伝令をするなら、他の連中とまとめて、ホールででもすればいいだろう。そう考えると……」
「我等で組んで行け、という言葉が抜けているのは確かであろうな」
「そういうことだ。他にも何か抜けている話がありそうだが、いいさ。ラグオルに降りてみれば分かることだ」

「ふーん。ま、いいわ。じゃあよろしくね。あたい、ヤン=メイファ」
 不機嫌顔から、瞬く間に笑顔になる。
「俺はロアだ」
 アンドロイドの表情は分からぬが、淡々とした言い様に険しいところはない。
「ジーンだ。それより、先日は世話になったな。おかげで何事もなく逃げきることができた」
「ああ、あのことか。気にするな。退屈しのぎにちょうど良かっただけだ。あの程度のザコ、どうとでもあしらえる。呆気なさすぎて、毒気を抜かれたがな」
 声音に笑みが滲む。
「頼りにするわよ」
 ヤン=メイファの言葉に、謙遜するでもなく、当然のようにロアが頷く。
 よほど戦闘には自信があるらしい。
 それが本人の思い込みでなければ良いが。

「でさでさ、一緒にやるって言ったって、どうしてくの? 今のうちに決めちゃったほうがいいわよね」
「解決は早いほうがいいんだろう。面倒な話し合いは抜きだ。明日の朝にでも実際に降りてみるか? あれこれ細かいことを決めるのはその後だ」
「あたいはそれでいいわよ。早く外に出たくてウズウズしてたしね。なんなら、今からでもいいけど?」
「我は構わぬが」
「それなら、そうするか。ラグオルへの転送は、確か本船のテレポーターでしかできんはずだ。左舷最下層だったか」
「よく知ってるわね、そんなこと。ま、いいわ。準備整えたら、そこに集合ね?」
「ああ」
「承知した」
「それじゃあ、後で、な」

 ロアはその一言を汐にさっさと歩き出す。
 ヤン=メイファも去ろうとしたが、そこでふと、気がついた。
「ヤン……と呼べば良いのか?」
「え? ああ、なんでもいいわよ」
「テレポーターの位置まで一人で行けるのか?」
「うっ」
 やはり。
「都市船のポート前で待ち合わせよう」
「……分かったわ」
 心なしか赤い顔をして、ヤンは大股で歩き去っていった。


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