休日の暴君

 休日の昼下がり。
「ほらぁ、もうお兄ちゃんそこどいて!」
 暴君の忠実なしもべが唸り声を上げて追い立てる。
 ガーガーゴーゴー、人間は進歩してきたはずなのに、どうしてこんな騒音を撒き散らしつづけるのか。まるで、静けさは敵だとでも言うかのように。

「邪魔、邪魔!」
 さっきどいたばかりなのに、とは言わず、ボイドはおとなしく元の位置に戻った。その後を、掃除機が勇ましく進軍していく。
「Gちゃんもほら、どいて! そんなとこで銃おもちゃにしてないで、クロちゃんとでも遊んでなさい」
 休日のキーラは暴君。
 押し付けられた黒猫を抱えて、Gはリビングのソファに寝転がった。ここは真っ先に埃をはたいていたから、今から侵略されることはない安全地帯。

(エサくうか?)
(いらなーい)
(そうじき、うるさいな)
(シメちまえー)
(きょうはやすみだからだめ)
(おくびょーものー。おくびょーものめー)
(うるさい。それならおまえがやめろっていえ)

 シャトのつり目を、Gはぐいーっと左右に引っ張った。
 その手を振りほどいて、果敢にも特攻した黒シャトは、思いっきりすごみをきかせて近づき、しっぽで肩をノック。
「邪魔しないの!」
 あっさり掴まれて、放り投げられた。玉砕。

 どころか、もれなくとばっちり付き。
「あーっ!! まだカバーかけてないのに土足でっ!! Gちゃん、おりなさい!!」
(おにばばー)
(うん、おにばばだ)

「ぼいど」
 やっぱり、世間の休日には、こっちは働くに限る。
 思いは同じだったと見えて、コンパクトサイズの粗大ゴミ一号は、頷いてペーパーを畳んだ。
(おれもいくー。そうじききらーい)

「仕事に出てくる」
 休日の暴君。
 手伝えと言い出さないだけマシ。
 ここは白旗、戦略的撤退と転進。
「やれやれ」
(やれやれ)
(やれやれー)
 外に出てほっと一息。今日はどこへ行ってみよう。

 なんでもない、休日の昼下がりだった。