親の因果が子に報い?

「情操教育が必要なんだよ」
 とヨネスが言った。
 そしてキーラも、
「お父さんのせいでこんなふうになったんだとしても、まだ三つか四つでしょ。今からちゃんと育ててあげたら、普通の子になるんじゃないかな」
 と言った。
 ボイドは、眉間にシワを寄せたまま黙々と銃の改造をしているGを見下ろした。

 レイガン程度ならばともかく、いったいどこの屑鉄屋から買ったのか、こんな大型で旧式の銃、自分では持てもしないだろう。
 それなのに手に入れてからずっと、小さな手で悪戦苦闘しながら、延々といじりつづけているのである。
 最初はモデルガンだと思った。改造ごっこをしているのだと思ったのだ。
 だが本物だった。
 引き金を引けば弾が出る。しかも、そろえてある弾は炸裂弾だの貫通弾だの、物騒なものばかりである。
 どう考えても、この子供はおかしい。

 一時的に預かるだけならばともかく、一ヶ月たっても父親らしい男の消息はつかめない。
 しかも役所に問い合わせたところ、ガッシュという男はいるが、独身で子供などいないというのである。しかしどう見てもこの子供とあの男、そっくりである。ともすると、市民登録すらちゃんとしてやらなかったダメも極まった父親なのかもしれない。

 こういう子供は孤児院行きだ。
 だがラグオルの孤児施設はろくなものではなかった。
 移民に際して、そういった補助が必要でないことが条件だったため、福利厚生についてはずいぶんいい加減な有り様だったのである。
 しかしラグオル・クライシスで大勢のハンターズが死亡し、そのせいで孤児となる子供も出てきた。慌てて施設を作ってはみたが、物資にしても精神的な余裕にしても、今のラグオルではかなり不足している。
 パイオニア3が充分な物資と共に訪れる時まで、果たして生きていけるのかどうかのサバイバルなのだ。
 のんきな市民はそれを知らされずにのほほんとしているが、政府関係者には絶望的だと見ている者もあるという。

 軍の上層部に、相手が超のつく変わり者であることを除けばコネがあるボイドは、そういった裏事情を知ることができた。
 孤児院に預けても、こんな奇妙な子供、面倒をちゃんと見てもらえるとは思えない。下手をすればラボに回されかねない。
 となると、要するに自分たちで当分の間、育ててやらねばならないのである。
 届けを出し、市民登録がないこともはっきりさせ、その上で暫定養育権と義務を得る。
 アンドロイドの子育てなど無謀かもしれないが、その点、長いこと生活補助CPUとして生きてきた妹・キーラの知識が役立つだろう。友人・ヨネスも少年の後見人となるべく作られているため、生活や教育に関する知識は豊富だ。
(それならなんとかなるか)
 俺は経済的基盤さえ安定させればいいんだしな、などとボイドは軽く考えていた。

 いつもムスッとした顔をして、することと言えば「エネミー狩り」。言葉や計算は教えなくてもいいようだが、このままではまずいんじゃないかと思っていれば、銃の改造。
 ますますいけない。
 どんどん常識的な子供から遠ざかっていく。
 情操教育。
 では具体的にはどうすればいいのだろう。アンドロイド三人で顔を突き合わせ、考えはじめてから三十分が過ぎようとしている。

「あ、そうだ!」
 突然、キーラが手を打った。金属の手にも関わらず、パンと気味のいい音を立てる。
「なにか思いついたのかい?」
「マグですよ、マグ。育てさせてみたらいいんじゃないかな、ね、お兄ちゃん」
「ああ、マグね! そりゃいいかもね。旦那、たしかこの間、一日で二個も素体を見つけたって言ってなかったっけ?」
 生き物(?)を育てるのは、情操教育として屈指の選択だろう。だが、この子が素直にそれを実行するだろうか。そんな疑問を持ったボイドは即答できなかった。

(やらせてみて、結果から考えるしかないか)
 そこまで計算してから頷き、倉庫からはぐれマグを取り出した。
 まだ素体のままだ。
 ハンターズとしては、能力補助をしてくれる便利な相棒である。
 そんなわけで三人は、このヒネくれたかわいくないおガキ様に、素マグを一つ育てさせることにしたのだった。

 

 そして半月後。
 あれからどうなったんだろう、とヨネスがボイドの家を訪れると、応対に出たキーラは
「あは、は、はははぁ……」
 と乾いた笑いを零しつつ奥を示した。
「??」
「ちゃんと育てたんですよ、Gちゃん。黙々とエサあげて。どこかでシャトにするデータ手に入れたらしくて、今朝なんかそれ使ってシャトにしたんですけど……」
「へえ! 猫型にするなんて、あの子もかわいいとこあるんだねぇ。良かったじゃないか」
「それはそうなんですけどね……」
 キーラの言葉は歯切れが悪い。
 いったいなんなんだろうと思ってヨネスがリビングに入ると、そこには、真っ黒なシャトを抱えたGと、手のひらに顔をうずめたボイドがいた。
「G坊、かわいいの作ったねぇ。お気に入りかい?」
(あんなにしっかり抱きしめて、かわいいじゃないか)
 などとのんきなことを考えつつヨネス。
 しかし覗いて、この兄妹が何故素直に喜んでいないのかを理解した。

 シャトの目つきは、Gそっくりだったのだ―――。

(二匹に増えた)
 思わずそう思ってしまったヨネスであったとさ。

 

(おちまい)