少し起きていたせいか、またぐるぐると天井が揺れ始める。
 実際に俺がふらふらしてるのかもしれない。
「寝ておったほうが良いぞ」
 ジーンが言うくらいだから、たぶん、見て分かるくらいにどうしようもなくなってるんだろう。
 促されるまま横になると、いくらかは楽になった。

「薬はないのか?」
 ショットタイプの解熱剤があったが、あれはどこにしまったか……。
 思い出せない。
「たしか……飲み薬が、メディカルキットと一緒に……」
「待っておれ」
 薬なんて大っきらいだが、これは飲んだほうがいいのかもしれない。
 やがてジーンが、見つけた薬と、グラスに水を持ってくる。
 起きるのが、つらい。
 体が鉛みたいに重くて、腕を上げるのも億劫だ。
 ジーンが俺を起こそうとするが、脱力しきった体っていうのは、半端じゃなく重くなるものだ。
 えらく苦労している。
「仕方ないか……」
 ジーンが諦めて息をつき、小さな間。

 ああ、もうジーンの可愛い顔もほとんどまともに見えないくらい、真っ暗だ。……って、目を閉じてるんだろうが、そういう自覚もない。
 まったく、たまに風邪ひいてこれなら、もっと頻繁に細かいのもらってたほうがマシだ。
「ベータ」
 呼ばれて、目を開ける。やっぱり閉じてたらしい。
 白々しいライトに、銀髪がきれいだ……。
 いや、そんなことはともかく。
 口元に運ばれた錠剤を、素直に受け取る。
 かなり苦い薬のはずなんだが、味も分からない。

 そして。
 ジーンが。
 グラスの水を自分で含んで。
 俺に顔を近づけた。

 ……………………。

 は……はいぃッ!?

 ちょ、ちょっと待てッ!!
 それってつまりあれそのあのいわゆるあれか口移しというヤツなのかヤツなのかッ!?!?

「いっ、いいっ! いい!! そんなことしなくていいッ!!」
 俺は腕の重みもなんのその、ジーンを押しのけた。
 口の中の水を飲み込んで、ジーンはいくらか困ったような顔……になったらしい。
「厭うこともあるまいが。おぬしには挨拶程度であろう? それと大差ないと思えば……」
「い、いや、そうじゃなくてっ! だっ、だからっ、うつるだろう!?」
「地表に降りておってこうして平気である以上、我には免疫があるということではないか?」
「そうとは限らないだろう。俺の中に入ったのがどう進化してるかも分からないんだ」
「……そうか。では、なんとか起きてもらわねば」
「わ、分かってる」

 驚いた拍子に熱まで少しぶっ飛んだのか、今度は呆気なく、起き上がることができた。
 口中で溶けかけていた薬を、受け取ったグラスの水で流し込む。
 頭はぐらぐらして心拍数も尋常じゃないが、これは風邪のせいとはとうてい思えなかった。

 ジーンが帰ってから、俺は自分のバカさ加減に呆れて、頭痛を覚えた。
 なにやってんだ俺は。
 せっかくの、せっっっっっっかくのチャンス。
 それもジーンのほうからあんなオイシイことしてくれようとしたのに、なんで断ってんだ。
 ああああ、俺、ホントにいったいどうなっちまったんだよ、これ……。

 

(おちまい(死))