ある日の小話 9

 

β

 

「……おい、黒いの。この人目の多い公園で遠慮もなく堂々となにやってんだおまえは」

RAVEN 「黒いのはたくさんいるんですから、そういう呼び方はどうかと思いますけど」
β 「通じるんだから文句言うな。それより、なにやってるんだと聞いてるんだ」
RAVEN 「ご覧の通りですよ? もしご存知ないならご両親の教育とこれまでの人生を疑わせていただきますが、編物です。準備に毛糸だま作ってるんです」
β 「俺の出生から現在に到るまでの心配は無用として、そのな、視覚的にもシチュエーション的にも激しく疑問を振りまきそうな行動を、こういう衆人環視の中でやるなよ」
U-SAM 「とはいうが、ベータ。この界隈ではこれが当然だぞ。誰も疑問など持っとらんと思うが」
RAVEN 「いいじゃないですか。ヒューキャストだからってしか持っちゃいけないわけじゃなし」

β

「全世界のヒューキャストに激しく間違ったイメージ吹き込むような発言はやめろよ(汗)」
KIREEK 「……鎌のどこが悪い」
β 「うわぁ!? って、なんでおまえがここにいるんだよ!?」
KIREEK 「…………くっ」
β 「………………。そうか。苦労したんだな」(←有り余るほどの同情に満ちた眼差しで、ぽむ、と肩に手を置く)
RAVEN 「あ、キリークさん、やっと来ましたね。じゃ、ユーサムさんと交代してください」
KIREEK 「なっ!! お、俺にそれ(毛糸がもつれないよう、両腕に毛糸を巻いている状態)をやれというのか!? そこのとっぽいポンコツならいざしらず、この俺に!? この俺をそんなことで呼び出したのか!?」
RAVEN 「……あ、そうですか。じゃあ、」
KIREEK 「わ、分かった。やる。やるから待て」
β 「(どんな弱み握られてんだよ)(汗)」
U-SAM 「やれやれ。さすがにこの年になると同じ姿勢でいるのは肩が凝ってたまらん」(←ポンコツ呼ばわりはどうでもいいらしい)
KIREEK

ぶつぶつぶつぶつ……

β 「(す、すげぇ視覚効果……。ヒューキャスト二人で毛糸いじりか……。最早これ、暴力だよな。ヒットポイントの20%ずつくらい、毎ターンダメージ受けそうだぞ)」
RASH 「おや?」
KIREEK 「げッ、出たッ!?」
RASH 「失礼な……。そんな態度をとるとだね」
KIREEK 「謝るからそれ以上こっちに来るな
RASH 「……ぐすん。しくしく」
Tyrant 「貴様、覚悟はいいか?」
KIREEK 「なんでそうなる!? はっ! ひょっとしておまえが……ま、待て、ちょっと待てっ! おい、そ、そこの常識人! なんとかしろ!!」
β 「おお! 常識人扱いされたのは初めてかも!!」
KIREEK 「は!?」
U-SAM 「タイラント。よさんか。泣き真似と分かっててこれではたまらんぞ」
Tyrant 「……ふん」
KIREEK 「なんだ、本当に常識的なのはおまえだけか。一人でもいないよりマシだが」
β 「がくー。ほんの数秒間の命かい、常識人としての俺……」
Tyrant 「属性・変態色魔が今更常識人ぶるな」
β 「おまえまでそんなこと言う!?」
Tyrant 「『将を射んとすればまず馬を射よ』とか言って兄貴のほうから落とすことを考えたのはどこのどいつだ?」(←実話。βプレェヤァの捨て鉢な発言である……)
β 「まあまあ★」
KIREEK 「(もう帰りたい……)」
RAVEN 「あ、動かないでください! もー、毛糸ってヤワなんですから、私たちが迂闊に力入れると簡単に切れちゃうんですよ?」
KIREEK 「毛糸に比べては天文学的な倍数ほど強靭なヒューキャストが編物をしようという発想自体を改めたらどうだっ?」
RAVEN 「人の趣味に文句つける人、嫌いです(ぷい)」
KIREEK

「く……、ム、ムカつく……っ」

RASH 「まあまあ。喧嘩はよさないか。二人仲良く毛糸遊びとは、微笑ましい光景なんだから」
β 「やってんのが可愛い女の子ならな」
RASH 「男が細かいことにこだわるな」
β・KIREEK 「細かくないだろ!!」
RASH 「二人して怒鳴る……」
Tyrant 「………………」
U-SAM 「もういい加減にしてやれ。まったく、見てるだけでもハラハラするではないか」
β 「よし。この話題でツッコむのはもうやめよう。そのほうが自分のためだ」
KIREEK 「……うむ」
RAVEN 「はい巻き終わり〜♪ ご苦労様でした」
KIREEK 「ほっ……。それなら俺は」
RAVEN 「なに言ってるんですか。そんな棒立てといたってどうにかなりそうなことさせるためだけに雇ったと思うんですか」
KIREEK 「!? だっ、だったらハナっから棒……!!」(←途中から最早声にならないが、ほとんど絶叫)
β 「諦めろ。こいつらは天災と同じだ。人間がどう足掻いたって適うもんじゃない」
RASH 「こいつ『ら』って、私もかな?」
β 「全力でそうだ……と言いたいところだが一応除外しておこうかな、うん(汗)」
Tyrant 「……ふん」
U-SAM 「ほー。それにしても器用なもんだなぁ。そうやって服の形を作っていくわけか。ははぁ」
RAVEN 「えーと、ここまでで82〜。キリークさん、この数字覚えておいてくださいね」
KIREEK 「……おい。もしかして、数字を覚えさせるために……」
RAVEN 「あらかじめ言っておきますと、力加減がかなり絶妙に難しいんですよ。だから余計なことにAIさきたくないんです。分かりましたか?(にっこり)
KIREEK 「わっ、分かった」
β 「(伝家の宝刀抜いたなぁ……。世の中でこいつの鎌より怖いものがあるとすれば、これくらいかなぁ)」
KIREEK 「(なんで、なんでこの俺が、この俺がっ)」
RASH 「手編みのセーターか……。面白そうだな。私もやってみるかな。な?」
Tyrant 「勝手にすればいいだろう」
RASH 「ふーん。あ、そ。じゃあ、キリーク。寸法をとらせてもらえるかな?」
KIREEK 「は? 俺?
Tyrant 「………………」
KIREEK 「なんで俺が睨まれるんだ!! その浮気性の尻軽を睨めばいいだろうが!?」
β 「あ゛、すげ地雷」
U-SAM 「うむ、特大だな」
Tyrant 「……どこの誰が浮気性の尻軽だと?」
RASH 「しくしくしくしくタイラントは素直じゃないから寸法とらせてくれって言ったってとらせてくれるわけないだろうしだから代わりに体格が同じ君に頼もうと思っただけなのに何故そんなふうに言われないとならないのかな傷つくなぁしくしく」
RAVEN 「はいはい、それ以上キリークさん遊ぶのやめましょうよ。だいたい、玩具壊れるまで遊ぶなんて、赤ちゃんじゃあるまいし」
β 「うわっ、さらっと一番非道いこと言ってる」
KIREEK 「(かっ、帰りたい……っ)」
U-SAM 「やれやれ。もういい加減にしてやったらどうだ。目の数字なら、代わりにワシが覚えておいてやるから」
KIREEK 「(常識人……ッ)」(←後光がさして見えてつい拝みたい気分らしい)
U-SAM 「おまえさんもそんなことばっかりしていると、にもらってくれる奴がいなくなるぞ」
KIREEK 「へ? よ、『嫁』……って、こいつが?」
U-SAM 「炊事洗濯掃除に子守り、裁縫に家計管理までどれもパーフェクトなんだが、いかんせんこの性格がなぁ」
Tyrant 「それさえなければとっくにどこかに片付いてるだろうにな」
RAVEN 「い、いいんですっ。私が出て行ったら誰がカルマ兄さんの老後の面倒見るんで……」
KIREEK 「もうイヤだあぁぁぁぁ……ッ!!」(←逃亡)
β 「あ、壊れた。……どーしたんだ、あれ? なんか変なこと言ったっけ?」
U-SAM 「さて……?」

 

もう、末期(マッキではなくマツゴと読む)

 

RAVEN 「案外キリークさんて、根性も耐久力も、順応性もありませんでしたね」
RASH  「もう少しからかい甲斐があると思ったんだが」
RAVEN 「どこまで保つかなぁ……」