ある日の小話 2
  
RAVEN   「ねえ兄さん」
Tyrant 「俺は知らんぞ」
RAVEN 「まだなんにも言ってません。それとも、知らない、ととぼけなきゃならないようなこと、したんですか?」
Tyrant 「うるさい! なんなんだ」
RAVEN 「シノワビートたちって、機械なんですよね」
Tyrant 「……すまん。用事を思い出した」
RAVEN 「逃げようったってそうはいきませんよ」
Tyrant 「チッ。なんなんだ。聞いてだけはやるから、とっとと言え」
RAVEN 「たぶん皆が思ってることだと思うんですが、どうして分身したり、レスタ使ったり、挙げ句の果てには消えたり、トドメにはシフタ・デバンドまで使えるんでしょうね?」
Tyrant 「そういう仕様なんだろう」
RAVEN 「作業用だかガード用だかしりませんが、それなのに、ですか? それなら私たちにもそういう機能、つけてくれてもいいですよねぇ」
Tyrant 「そのへんのことは、ジーンが詳しいぞ。あいつに聞いてみろ」
RAVEN 「そうなんですか? じゃあちょっと行ってきます」
Tyrant 「……(ほっ)」

    
    

RAVEN 「と、いうわけなんです」
Jy.n 「現行のアンドロイドは、基本的なポテンシャルが生身の人間よりは高く設定されておるからだろう」
RAVEN 「でも、もっと強化してしまえば、いろいろと楽なんじゃありませんか?」
Jy.n 「製作規格や規定が設けられておるのと同じでな。無制限に強くしては、万一の事態に陥った時、ヒューマンでは止めようがなくなるがゆえだ」
RAVEN 「万一って……」
Jy.n 「反乱やテロ、だ。無制限に強くしたアンドロイドが結託してテロを起しては、ヒューマンたちになすすべはない。かと言って、外部から操作できる緊急停止用の回路など組み込んでは、アンドロイドの人権に関わる。どちらが良いかという協議の結果、能力値や搭載機能の制限で決着がついたはずだ。『ルフトハウゼン会議』は歴史の教科書にも載っておる」
RAVEN 「つまり、どちらにせよ私たちは、あくまでもヒューマンの使う道具だということですか。ヒューマンの都合でしか変化もできない、と」
Jy.n 「む……。そう、言われると、困るが」
β 「おいこらそこの黒いの。『俺の』ジーンを困らせてるんじゃない」
RAVEN 「現れるなりそれですか。相変わらず飛ばしてますね」
β 「もはやなんぴとたりとも俺を止めることはできん。愛の超特急には終着駅しかないんだ」
RAVEN 「その表現、かなりセンスありませんよ」
β 「うるさいよ、おまえ。それはともかくだな、不服だと言うなら、掛け合えばいいだろう。テクニック発動ユニットでもなんでも、作ってくれるように」
RAVEN 「で、とにかくここからさっさと去れ、と」
β 「そういうこと」
RAVEN 「はいはい。お邪魔しました。二人で愛の巣でも蛇の巣でも作ってくださいませね」
β 「物分りがいいところは、兄貴よりマシだな」
Jy.n 「ベータ。鳥でも飼いはじめたのか?」
β 「ん?」
Jy.n 「巣がどうのとか言うておるから。今日来たのはそのためか? 巣箱でも作るとか……」
β 「(天然でこのボケっぷり、……可愛いよなぁ)」(←末期)

  
  

RAVEN 「と、いうわけでケイン博士に頼んでみたんですけど、駄目でした」
Tyrant 「なんでそれでまた俺のところにくる!? とっとと諦めて仕事に行け、仕事に!」
RAVEN 「なんでそう冷たいんですか。ヒューキャストの悩みはヒューキャストが一番分かるものでしょう」
Tyrant 「おまえのそれは悩みなんて高尚なものじゃない。だいたい、悩み事の相談なら俺よりカルマのところへ行け」
RAVEN 「もう……。分かりましたよ。最近本当に冷たいんだから……(ぶつぶつ……)」
Tyrant 「……少し、言いすぎた、か……。い、いや。これくらい言っておかないとな。あとはカルマがなんとか言いくるめてくれるだろう」
  
  
Karma 「で、俺のところに来た、と」
RAVEN 「ずるいと思いませんか? シノワ一族」
Karma 「たしかに、俺たちがせめてレスタとシフタだけでも使えるようになれば、ずいぶんと楽になるんだがな」
RAVEN 「でしょう。でも、ヒューマン側の事情というヤツがあって、ユニットとか、作れても作るわけにはいかないんだそうです」
Karma 「仕方ないさ。それが共存するということだ。俺たちが強くなりすぎて、ヒューマンに不安な顔で見られるよりは、今のまま、普通に受け入れてもらったほうがいいじゃないか」
RAVEN 「それはそうですけど……。私だって、ヒューマンに敵対したいわけじゃないんですよ。私たちが道具だっていうなら、それでもいいと思いますけど、それならもっと効率のいい道具のほうがいいでしょう」
Karma 「……相変わらずさらっとシビアなこと言うのな。ま、まあ、なんにせよ断られたんだろう。あれこれ考えたって無駄だってことだ。それとも、シノワビートに弟子入りでもするか? ハハハ」
RAVEN 「………」
Karma 「お、おい?」
RAVEN 「そうします」
Karma 「バッ、バカ! 今のはほんの冗談で……」
RAVEN 「教えてもらってきますね。じゃ!」
Karma 「『じゃ!』じゃない! だいたい言葉も通じんだろうが!?」
RAVEN 「気合でなんとかします」
Karma 「気合でなんとかなるものなのか!? っておい、待てレイ! ……ぶ、無事に……いや、あいつのことだ。ひょっともすると、本当に弟子入り果たして……。ま、まさか、な。ハハ、ハハハハ……」
  
 
RAVEN 「聞いてます?」
「………」
RAVEN 「貴方からは分身の仕方を教えてもらいたいんですが」
「………」
RAVEN 「それが駄目なら、お仲間呼んでもらえませんか? 私としてはレッドさんたちあたりだと一番嬉しいな、と……」
「………」
RAVEN 「……あくまで無視ですか。まあ、最初からいきなり弟子入りさせてもらえるとは思ってませんけどね。世に『三顧の礼』とか言うそうですし。それに、とりあえず手土産に首の七つや八つ、持っていくべきですよねぇ? ねぇ?」(にっこり)
「!?」(何か不吉なものを感じたらしい)
RAVEN 「先日、さるお友達から、素敵なもの頂いたんです。今まではずっとこのソウルバニッシュ使ってきたんですけど、ほら、これ」
「……??」
RAVEN 「重い上に長いしバランス悪いしで、ヒューキャストじゃないと使えないそうなんですけどね、ヒューキャストとして生まれた以上は、こういうの使いたいじゃないですか。それにこれ、対機械属性、60%ついてたりするんですよ」
「!!!!!!!!」
RAVEN 「攻撃力はツルハシなんかには及ばないんですけどね、これ、エクストラがチャージなんですよ。分かります? つまり、ツルハシのエクストラより当たりやすいことを合わせて考えれば、結果的に一撃の威力は上なんです。ブルーさんやレッドさんならともかく、貴方やゴールドさんなら、痛いと思う前に気持ちよく次の世界に逝けますよ?」
「!!??」
RAVEN 「弟子入りさせてほしいなー、と思ったんで今まで我慢しましたけど、どうしても聞いてもらえないなら、『手土産』として役立っていただきますよ。貴方のおかげで、丁度いい感じにヴァラーハも気合入ったようですし、ね」(再びにっこり)
「(@□@) !!?! (T_T) m(__;)m」
RAVEN 「あ。それ、『土下座』ですか? 初めてみましたよ。……? 拝まれたって困りますけど。案内してくれるんですか? 俺から頼んでやるって? ああ、それはありがたいですねぇ。あれ? そういえば、いつの間にかなんとなく貴方の言葉が分かるんですが? 『気は心』?『以心伝心』? まあ、同じ機械同士ですし、仲良くしたいところですよね。ね?」
「(^^;)」
  
  
RAVEN 「……と、こういう経緯がありまして、『秘密』をいただいてきました」
Tyrant 「………(汗)」
Karma 「………(滝汗)」
RAVEN 「結局、武器が肝心だったんです。分身や陰形の術は機能そのものに加え修行が必要だそうで、すぐには無理だったんですが、ほら、これ見てください。レッドさんからもらったんですよ。これを使えばシフタとデバンドかけられるそうです」
Karma 「よ、良かった……な」
RAVEN 「はい。あとは術を教えてもらえばOKですね」
Karma 「お、おい。まさか、教えてもらう約束……?」
RAVEN 「(にっこり) さーて、そろそろ夕飯の準備しますよ。あ、良ければ明日から、兄さんたちも来ます?」
Tyrant 「遠慮しておく……」
RAVEN 「そうですか? 刀`♪〜♪♪〜」
Tyrant 「だ、誰か……頼むから、あいつを止めてくれェ……(泣)」