食べた智恵の実が腐ってたんだ、とボクは思うの。
智恵の実を食べたから腐ったんじゃなくて。

だから、今この星も腐った果物そっくりなのネ。
皮もずるずる。虫喰いだらけで。もう芯のほうまで、汚染されて、めちゃめちゃになってるでしょ。
人間っていうカビが、この美味しくてみずみずしい星っていう林檎をダメにしちゃった。
なんでそんな汚いものに人間がなっちゃったんだろって。
それはやっぱり、腐った実を食べたから、腐った実の上でしか暮らせなくなっちゃったの、きっと。
ちゃんとした実を選んで食べてたら、そんなことにはならなかったの。
そもそも食べちゃいけないっていうなら、そんな実のなる木は伐っちゃえばよかったんだもん。
それをしないで、試すようなことしたのは、「自分の似姿」が、信用できるかどうか判らない不完全なものだったってこと。
だから、この本に書かれてる神様って奴、万能でもなんでもない、でたらめの嘘っぱち野郎ってことなのよ。うん。

修道院(孤児院も一緒だったからネ)に送られたその日から、ボク、この本を読んで、この嘘っぱちの偽物にお祈りしなきゃいけなかったから、すっごく憂鬱だったの。
懲罰いっぱい受けたから、上っ面だけは、従うフリできるようになっちゃったし。
そんなボク、ボクは自分でもとってもイヤだったの。

だってボクは知ってたから。本当の神様。
神様って呼ぶかどうかは知らないけど、腐った実を食べて腐ったまま世代を重ねた今の人間たちを、ちゃんと駆除してくれる者を。
鳥の王(ロプロプ)
ボクはそう呼んでいるけれど。

そうしたら、この腐った林檎から、人間の一部が逃げ出して。開拓者って名前の船で。
人間ってカビが、胞子が飛ぶように、また別の星を腐らせにいくの。
新しいきれいな果実。ひょっとしたら、本物の神様が用意したかもしれない大地。
そこにカビが広がらないうちに、腐らない内に、なんとかしたかったけどボクはその船にのれなかったの。
でもね、次の船が出るって。船内にも教区を作るとかで、ボクのいた修道院からも一人だけ、修道女を乗せてもいいって。
ボクは修道院の中では独りだったから(だって偽物になんて祈れないもの)、絶対選ばれないのは判ってたのね。
でもボクは、新しい星でやらなくちゃいけないことがあるんだもの。

カビの駆除。

だから、出発直前に、選ばれたコとすりかわっちゃった。
とっても優しいコ。ボクをいじめなかったたったひとりのコ。名前もちょっと似てた。
ボクはマリー。彼女はマルスリーヌ。
でも、偽物の神様をあたまっから信じ込んでいた、可哀相なマルスリーヌ。
ボク、初めてちゃんと、鳥の王の御心にかなう良い事したよ。
偽物の神様を信じてたマルスリーヌを、腐った果物の世界から、お別れさせてあげたの。
次に生まれて来るときは、ちゃんと綺麗な世界で綺麗な人間になって生まれて来ますように、って、一生懸命、お祈りしながら。
マルスリーヌは、いっぱいいっぱい、胸からワインをこぼしてくれたの。
門出の祝杯までボクにくれた、ほんとうに優しい優しいマルスリーヌ。
全部飲み干せなくてゴメンネ。
おかげで、ボクは新しい僧衣に着替えなくちゃいけなかったけど。
みててね、ボクはきっと汚らしい偽神の汚染から、新しい星を守れるように頑張るからね。

もう、ボクは偽物の神様に、心にもないお祈りの言葉を捧げなくてもいい。

そんな船の中でね。

見つけたの。

一目で、ボク解ったよ。

真の天上から派遣された鳥の王。
人の格好してるけど、
ボク解ったよ。
やっと会えた。
ボクのロプロプ。
ボクと同じ世界を見てるひと。
世界の救済のやり方を、教えてくれるひと。
本物の神様の、本当の神父様。
世界は、貴方が起れ(フィアット)と言った時に起こり、止れ(ペレアット)と言った時に止まる輪。
いつか世界よ止まれと神様の号令が下った時に、ボクも止める力の一つになりたいな。

ボクは惑乱。
ボクは貴方の(マスール)


ボクは、百頭の女。