その発言を聞いて、あなたはなんとなく不愉快になった。 それはなにか違うのではないか、そう思った。 しかし反論はひかえた。何故なら、問い詰められても論破できる自信がなかったからだ。 反論するならば、もう少し自分自身の問いと答えを掘り下げねばならない。 だからあなたはこの、第一回目の会合は、特に意見はないとして終えた。
プレハブから出ると、あなたはまず、日陰を探した。砂漠の太陽は地獄のように熱いが、湿度が極端に低いためか、日陰で風を浴びていると思いのほか涼しい。湿度の高い日本の夏に比べれば雲泥の差だった。 プレハブ小屋自体の影はやめておいた。まだ数人、中に残っているのが気になった。話しかけられ、同意を求められる可能性を考えるとそこは避けたかった。 結局あなたは、親切な村人の家の軒先を借りることにした。 粗末な椅子に腰かけて、あなたは会合の内容と、そこで自分の感じたものをよく思い返す。 あなたたちは各国政府の代表として、この地に、オートボットたちの監視人として滞在している。 彼等が危険な存在でないかを、複数の価値観のもとで判断し、最終的な決定の参考にしようという試みである。 撮影隊に派遣されてから今まで、あなたたちはそれぞれのやり方で彼等オートボットについて調べ、探りを入れてきた。 その結果を報告しあうのが会合の目的だった。 どうやって調べるかは監視人それぞれである。直接話しかけ、しかも直截的に尋ねた者もいれば、遠まわしに世間話のようにし、彼等の「日常の反応」を引き出そうとした者いる。オートボット個人の価値観や考えではなく、彼等種族の根底にあるそれらを知るため、歴史を事細かに尋ねた者もいるし、一切話しかけることなく観察しつづけた者もいる。 あなたはそれらを適度にミックスして行った。それぞれのチャンスに、相応しいものを実行したのである。 あなたも含め全員が、彼等の態度や返答にはなんの危険要素もない、と判断した。 しかし、あなたも含めた全員が、それを鵜呑みにする気はなかった。 あなたは考えている。故郷を失って放浪の末に辿り着いた地で、そこに住ませてもらおうとする者が、どうして先住民に敵対的な態度や応答をするだろうか、と。だから彼等はどんなインタビューにも紳士的に応えてくれたし、不躾な質問に少し気分を害しても、決して声を荒げたりすることはなかった。 しかし。 「どうせ奴等は猫をかぶってるんだ。何百万年も生きてるのが本当で、百年や二百年は待っていられるというのが本当なら、我々が油断するまで待つこともできるということだ。高度に知的な生命体だそうじゃないか? だったらそれくらいの芸当はお手の物だろう」 同僚の一人が嘲笑うように吐き捨てるようにこう言ったとき、あなたはそれまでの「なにか違う」といった違和感や、「たしかにそうなんだよなぁ」という控え目な同意ではない、明らかな不愉快を覚えたのである。 彼の言うことはもっともだ。オートボットは非常に長命であるというし、非常に知性も高い。なにせほんの数分で、地球上のあらゆる言語を習得し使いこなすほどだ。なるほど、あの頭の中は超高性能な機械の脳なのだろう。ならば、内心がどれほど邪悪でも、それを出さずに振る舞うこともできるのかもしれない。 あなたも、彼等のことを信用はしていない。あまりにも友好的で紳士的な態度には特に、騙されているような気がしてしまい、「本当なのか?」と考えずにはいられない。 にも関わらず、同僚の言葉にムッとした、それが自分でも不思議だった。
太陽の移動につれて動く影の中で、あなたも少し場所をかえた。 そしてふと気付いたことがある。 あなたはたしかにオートボットたちのことを信用はしていない。だが、まったく信じられないと思っているわけではない。どちらか分からないから調べに来ているのだ。 あなたは、オートボットたちが信用できるかどうか、それを判断する材料を探しているが、彼―――彼等は、オートボットたちは信用できないという証拠を探している。最初から信じるつもりがない。それがあなたを不愉快にさせたのだ。 たしかに、オートボットたちは人間よりも圧倒的に知的で、高い戦闘力と技術力も持っている。もし彼等が邪悪な理由で地球に現れれば、映画のディセプティコン同様、人類を数日で絶滅させかねない危険な存在だろう。実際メガトロンなど、映画では本物よりも相当弱く表現されているらしい。 彼等が高い知性で邪悪な本心を巧みに隠し、地球を手に入れようとしている可能性もなくはない。 しかし、だったら何故、彼等は今すぐにそうしないのだろうか。人間と仲良くして見せるメリットなどないのではないか? そういった誤魔化しは、彼我の差があまりないときに、優位を得るためにすることではないのか? 彼等ほど圧倒的な力の持ち主ならば、来たその日に力を示し、全人類を支配するか抹殺してしまえるのだ。 そういう彼等が、あえて友好的に、平和的に、この星、あるいはこの星系に住むことはできまいかと申し出てきている。 だとすれば彼等は真実、友好的で平和的な種族なのではないだろうか。
あなたは小さく溜め息をついた。 どうやら彼等は、友好的であろうとするがゆえに、かえって胡散臭く見られてしまうらしい。あなた自身にとってもそうだ。優等生的な答えを聞くたびに、「そうじゃなくて」とか「本当に不満はないのか?」とか「本当のことを言っていない」と感じてきた。 優等生すぎる相手は、人間のような劣等生には信用のできないもののようだ。 あなたは考える。 彼等の答えは本当の本心なのか。 それとも、もう少しくらい別の答えがあるのだろうか。 それをどうやって見分ければいいだろうか。 どうすれば別の答え、優等生ではない―――ともするとそれを演じない答えを聞けるだろうか。 彼等にも感情があり心があるなら、愚痴や悪口を言うことだってあるのではないか。 それとも、そんなことすらしない仏様か聖人のような種族なのだろうか……。
そのとき。 ウオン!と犬の吠える大きな声がした。 あなたは座ったまま椅子から飛び上がるという器用な芸当をした後、声のしたをほうを見た。10メートルほど先に、どんな種類かは知らないが、黒と褐色の大きな犬、大人の腰ほどまでもありそうな犬がいて、あなたを見ていた。 あなたは犬が苦手である。 子犬くらいならばともかく、少し大きくなるともう怖くていけない。 なので、それほど大きな犬がこっちに脚を踏み出してきたときには、あなたは反射的に椅子を蹴って立ち上がり走り出していた。 もちろん、犬はあなたの反応に驚いて、あるいは喜んで、それとも不審がって、大声で吠えながら追いかけてきた。 あなたは必死に逃げた。二度ほど、背中に犬の前足がかかったことがある。 転びそうになりながらも全力疾走し、どこか隠れられる場所、逃げ込める場所がないかと探した。 村の中心へと走れば飛びこめる家もあったろうに、あなたは無我夢中で走るうちに外へ向かっており、隠れられる場所も急に曲がれる場所もなくなってきた。 しかしふと気がつけば、犬の吠える声はしなくなっている。走りながら振り返ると、もうそこにあの大きな犬の姿はなかった。 諦めたのだろうか。だがまだ安心できない。今にもその角から飛び出してきそうな気がする。あなたは小走り隠れる場所を探し、本当に来ないと分かるまではそこでやり過ごすことにしたかった。 手近な家の住民にわけを話してかくまってもらおうか。そう思ったが、あなたは簡単な挨拶くらいしかこの村の言葉を知らない。事情の説明などは到底無理である。だからといって、犬がいるかもしれない村を通ってキャンプに戻るのは嫌だし、村の外を大回りするのも遠慮したい。一応安全であるとは言われているが、蛇や蠍が出ない保証はないのだ。 どうしようかと思っていたときだった。 家の陰で大きななにかが動いて、あなたは心臓が止まりそうになった。 しかしそれは、犬にしては大きすぎたし、姿も色もまったく異なっていた。 出てきたのは、銀色のスポーツカーだった。
それはあなたの傍まで来ると止まった。運転席に人はいなかった。そしてボンネットのあたりから、 「アンタ、犬が恐いのか?」 笑いを抑えた声がした。 ジャズという名のオートボットである。政治を担当するサイバトロンの一員で、セイバートロンのリーダー、オプティマス・プライムの従者の一人。 映画では副官となっているが、あなたがよく調べてみたかぎりでは、そういった公的な地位は存在しない。とはいえ彼が担う役割は副官と呼んで差し支えないので、たいがいの者はそう認識しているし、彼等もその扱いをあえて否定はしない。 ともあれ、あなたにとってはあまり得意なタイプではない。口数の多い相手がそもそも苦手なのだ。上っ面の言葉を次々と応酬するより、じっくりと話したいと思う。よく話したこともないのに判断するのはどうかと思うが、話していると疲れそうだと、あなたは今まであえて近づかずにいた。 しかし、とあなたは思いなおす。 この騒々しく、無分別な若さを感じさせるオートボットであれば、今までのものとは違う話が聞けるのではないだろうか。 怖いなら乗ってけよ、とからかうように言われたのに少しカチンと来たが、あなたは軽く会釈して、開いたドアに体を放り込んだ。 一瞬、話すことのない沈黙。 気まずくなる前に、あなたは率直に用件を切り出した。 自分の素姓を名乗り、インタビューしていることを伝える。 「ジャズ、あなたにも質問をして構いませんか?」 問うと、 「別にいいぜ。けど、そうだな。その前にさ」 「なに?」 「こうして俺はアンタを匿って、安全に送り届けてやるわけだし、アンタのインタビューに答えるって仕事もすることになるわけだ」 「感謝します」 「ノンノン。って、アンタ日本人だよな、その名前と外見。えーっと日本語……」 つぎに「よし」と言ったとき、それはあなたの耳にも「よし」と聞こえる滑らかな日本語だった。 「こっちのほうが喋りやすいだろ?」 ジャズに言われ、あなたは頷いた。 「ギヴ・アンド・テイクでいかないか? 俺はアンタの質問に答えるから、そのかわり、ちょっと手に入れてほしいものがあるんだ」 「なに?」 「―――ジャム」 と小さな声でジャズは言った。
あなたは少し前の出来事を思い出した。 オートボットにとってはジャムが、人間にとってのアルコールのように作用する。それを利用して(?)宴会を、などという馬鹿げた企画があった。 あなたたちはそれに参与していない。映画製作側から断固として断られたのだ。それでも宴会の様子は洩れ聞こえていて、半信半疑でいた。 ジャズがジャムをくれと言う以上、それが彼等にとってなんらかの娯楽物質であるのは確かだ。 危険はないのか、とあなたは考える。彼にとって、そして、酔っ払った巨大な機械生命体とともにいることになる自分にとって。 あなたの沈黙をジャズは渋っていると受け取ったらしい。 「少しでいいんだ。バレない程度。な?」 あなたはもう少し考える。そう簡単に手に入れられないから、あるいは禁止されたから、ジャズはこうして自分を介して手に入れようとしているのだから、おおっぴらにはできないことなのだろう。自分が彼にジャムを提供したとして、そのことが外部に知れた場合、問題はないだろうか。 「……本当に少しだけなら」 結局、あなたはそう答えた。ビニールパック入りの小さなイチゴジャムが、実はバッグの中にある。機内食のパンについていたものだ。バターだけを塗り、使わなかったからそのままバッグに入れておいた。それくらいなら、たぶん問題ないだろう。 「よし!」 ジャズはやけに嬉しそうな声を出し、スピードを上げた。
宿代わりにしている民家の一室で、あなたは袋入りの小さなジャムをバッグに忍ばせた。 それからもう一度ジャズの中に乗り込むと、彼はなにげない、散歩にでもでかける調子で走り、オアシスの向かい側、砂丘が陰を作る場所へと向かった。 「この辺は、もう少し先が流砂らしくてさ。人が来ないんだ。だからアンタも、俺からあんまり離れるなよ」 「分かってる。それで……これくらいだけど、これでいい?」 「おっ、サンキュ〜♪ じゃ、ちょっと降りてくれ」 言われたとおりに車から降りると、ジャズはその場でロボットの姿に戻った。オートボットたちの中では小柄な彼だが、それでも、あなたから見れば身長5メートルの鉄の巨人である。しかし彼はすぐにその場へあぐらをかき、あなたをひょいと手のひらでさらうと、自分の膝に乗せた。その扱いは素早く、あなたを少し驚かせはしたが、痛みや衝撃はまったくなかった。 そしてジャズは、あなたの前に自分の指、たぶん人差し指にあたるのだろうと思われる指を一本差し出した。 「え? な、なに?」 「ジャム。ここに少し出してくれよ。このまま一気に飲むと、少し強いんだよな。かと言って、その袋を破らないように少しだけ搾り出すってのは加減がけっこう大変でさ。アンタなら簡単だろ?」 「そりゃまあ」 あなたは袋の隅を破ると、ジャズの指先に少しだけイチゴジャムを絞り出した。 ジャズはそれを口元に持っていき、舐めるのかと思えば、そうではない。そのまま口腔部に差し込むと、ガチンと小さな接続音を立てた。なるほど、彼等に舌はなく、外部からなにかを摂取する場合には、ああするようだ。 人間とよく似た形状をし、同じように思考し会話するとはいえ、やはり彼等は異星人であるし、金属生命体であると、あなたは納得する。 「んー……」 「どう? その、美味しい、って感覚なのかな?」 「そうだな。俺たちにはない味だから、美味いかどうかって言われると微妙だけど、これはけっこういいかも。前に飲んだのより、クセがない」 「日本製だからかも。こっちの調味料って、なんでもものすごい大味だから」 「ふーん。ジャムって、作り方なんか同じなんだろ? それでも味が全然違うのか?」 「違うよ。チョコレートとか、アメとかね。そういうのも全然」 「チョコレートか……。アンタ、持ってる?」 問われて、あなたは少しわざとらしく溜め息をついた。 「遠足じゃあるまいし、そんなにお菓子ばっかり持って歩かないよ」 持ってると言えば、一口ほしいと言ったに違いない。ジャズは残念そうに肩を竦める。 「だいたい、ジャムで酔っ払うなら、チョコじゃどうなるわけ? 凶暴化されたりしたら困る」 「それはない、と思う、けど約束はできない。まあ、そうだよな。まあいいや。それでだ」 無駄口はそれくらいにして、とジャズは話を切り替えた。 なんでも訊いてくれと彼は言う。 あなたは少し迷う。 インタビューすれば、彼はやはり理性的に、優等生の答えをきちんと述べるだろう。子供っぽいところもあるし、口調や雰囲気は今風の若者といったところだが、それでも彼は、数万年の人生(?)を送ってきているのだ。 あなたは、これも一つの手立てだと、思い切って率直に話すことにした。 あなたたちの答えはいつもいつも優等生的で、だからかえって信じることが難しい、と。
ジャズは一瞬きょとんとしたように見えた。 しかしすぐに頷いて、「なるほどな」と呟いた。人間くさく、顎に手を当てて少し考えるように見せる。 「まあたしかに、喧嘩になりそうなことは言えない。腹が立ってもムカついても、そうだな、司令官は言うね。短気を起こすな、って。けど、騙そうとはしてないぜ。アンタらと喧嘩したくないだけで」 「腹が立つことって、やっぱりあるの?」 「そりゃあるさ。アンタは違うけど、内心は全然違うのが見え見えのインタビューされたりすれば、相手にしてらんねぇって思うし、イライラする。けど、そんなことしたらそいつは、待ってましたとばかりにそれを報告するだろ? だから俺は、後になって、セイバートロン語で愚痴るんだ。それなら人間には理解できない。でもそうすると、そういう態度は不審感を与えるからやめなさいって、またオプティマスのお説教さ。ったく、うんざりだ」 まるで親子みたいだ。あなたはそう思って少し笑った。 「あ、笑ったな。けどアンタだって、オプティマスの下についてみれば分かる。ああしなさい、こうしなさい、あれはダメ、これはダメ。まあね、それくらいできるよ。できるけどさ、ちょっとハメ外したくらいで、ラチェットと二人がかりで説教されたりするんだぜ? その点はディセプはいいよなぁ。メガトロンはあんまりうるさくない。まあ、その代わりにうるさいのがいるけど」 「誰?」 「スタースクリーム。アイツ、マジうるさい。ってかウザい。時々こっちにまで口出してくるし」 「へーぇ。あ、ジャズ。次のジャム、いらない?」 「お、サンキュー。でさぁ、」 ジャムが入ったせいなのか、普段からこんなものなのか、あなたには判断がつかないが、ジャズはあれこれとしゃべりはじめた。 隣、というか膝の上で聞いていれば、違う職種の友人の、他愛ない愚痴のようなものばかりである。しかも話題はあれからそれへと尽きることがない。こういうタイプの人間は苦手だと思っていたあなただが、これだけ大きく長命なロボットがそういった態度と口調でいるのは、なかなか面白いし楽しいものだった。地球人から見ると大きすぎて全体像の見えない彼等も、彼等自身の視点からすると、人間のような対抗心や反発心、苦手意識、苛立ち、そういったものを普通に持って生活しているらしい。 しかしあなたは考える。 これすらも、ジャズの演技である可能性はある、と。
「ん? どうした? あ、俺うるさい?」 「ううん。そうじゃないよ。―――こういう話聞いてても、全部、私に聞かせるための演技だって可能性もあるんだなって考えて。……ごめん」 あなたが言うと、しゃべり続けていたジャズが沈黙した。 本当のことを言いたい、とあなたは思う。相手の嘘を疑いながら、自分が嘘をつくのでは、卑怯すぎる。建前をぶつけて真実をもらおうなどとは、虫がよすぎるというものだ。 やがて、ゆっくりとジャズが背を屈め、あなたに少しだけ顔を寄せた。 「人間は、いつもそういうこと考えてるのか?」 彼は言う。だからあなたは問う。 「オートボットたちは、誰かを騙したりはしないの?」 ジャズは少し悲しそうな顔をして、首を横に振った。 「でも俺は今、そういうこと考えて話しちゃいない。証明する方法はないけど」 そう、証明する方法はない。 気持ちが真実かどうかを証明することは絶対に不可能だ。 だから、信じるかどうかになる。 あなたは、信じたい。こうして話しているジャズを、友達と呼べるようになったら楽しいだろうと思う。 しかし、信じて裏切られたときにはどうなるのか。そのときには、あなた一人の気持ちの問題ではない。 「こんな仕事、引き受けなきゃ良かった」 そうしたら、ただの一人の人間として、自分の気持の問題だけで、彼等を信用し友達になるかどうかを決められたのだ。少し前にインタビューした映画スタッフのように迷いなく、「一緒に住めるようになったらいいよね」と答えられるだろう。
「だったら」 長い沈黙の後、ジャズの声がした。 「責任なんてとらなきゃいいじゃん」 「え?」 「アンタの仕事は結局、信じるか、信じないか、自分の気持ちを決めるだけなんじゃないの? アンタがどう言ったところで、決めるのはお偉いさんたちだろ? アンタがGOサイン出すわけじゃなくて。だったら、アンタは好きなこと言って、好きなようにすればいいんだよ。私はこう思います、でも決めるのはあなたです、ってさ。問題は上にとっとと預けちまって、アンタは、俺たちと楽しくやりたいと思うなら、そうしたらいい」 「ジャズ」 「なんか、重大な責任背負ってるみたいな気がして、一人であれこれがんばってもさ、実際には俺の意見なんて参考程度だったりとか。がっくり来るけど、考えようによっちゃ、気楽でいい御身分だよな。アンタだって、そんなもんじゃないの?」 それは、ちょっとした自虐なのか、それともあなたへの慰めなのか。 たぶんだが、最初は慰めのつもりだった。しかしつい、愚痴が出た。それを慌ててもう一度慰めに戻した。 そんな気がした。
「よし、こうなったら私も飲む!」 「え?」 「ジャズ、少し酔っ払ってても、ちゃんと走れる?」 「ああ、これくらい。飲酒運転取り締まりそうな奴に限って実際には一番無関心だし、ラチェットに見つからなきゃ大丈夫だろ」 「だったら、もう一回私の宿舎に戻って。ビールあるんだよね。それから……チョコレート」 「マジ!?」 「疲れたときのお手軽糖分補給ってね。でも、少しだけだからね。なにかあったら大変なんだから」 「分かってるって。じゃ、行こうぜ!」 あなたがジャズの膝から飛び降りると、彼は大急ぎで車の姿へと変形した。
―――ただし、帰り道に運悪くラチェットに出くわしてしまったため、あなたたちは黄色のレスキュー車からたっぷり1時間は説教をされ、酒盛りはこっそりまた次回に持ち越されたのである……。
(終)
募集して、ご応募いただいてからはまたかなり相当たってしまいました。 最早、ご応募してくださったご本人がここをご覧かどうかもわからないくらいに! もしご覧でないとしたら、見切りをつけるくらい長らくお待たせしてしまったことをお詫びするしかないのですが、そのお詫びももう御覧いただけないというわけで。
ともあれ、「あなた」の物語第二弾は、オートボットの地球移住計画に際して、彼等の調査を行っている政府関係者、という設定です。 お相手はジャズ。 優等生的な答えしか返してくれないボッツたちに、それじゃ本当のことは分からない、と感じていた調査員が、ジャズを相手にあれこれと話をするわけです。
またも前振りが長くて、本題に入るまでが長いのがこの「あなた」シリーズの特徴。 でも「あなた」がどんな人物かまったく分からないままでは……って、それも「あなた」という第二人称の話としてはありなのか。
一話目は、個人的なスタンスで彼等への態度を決められる存在。 二話目は、そういうわけにもいかない……と思っていた存在。 あまり密な絡みはありませんが、同じ空間と時間を共有しながら、ボッツたちと友好関係を築いていきたいと願う二人です。 |