《ごちゅうい》 ここから先にあるのは、PS3版ゲーム「TRANSFORMERS THE
GAME」からはみ出した、変な「アメちゃん」妄想から出てきたSSです。 ボッツ側もディセプ側も、主要キャラは何故か家族設定で、「基本的には体が大きいほど年上」です。 そんな奇妙な世界でよろしければ、どうぞご賞味くださいませ。
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ほんじつ まことに あめちゃんびより | |
突然船が制御を失って、大きく傾いた。 彼が中央制御室に足を踏み入れたのと、それはほぼ同時だった。 「早く来てなんとかしてくれ! あんたたちのところの小さいのが三人、泣きわめいていて大変なんだ!」
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「そんなことを彼に聞いて分かると思うのかね、アイアンハイド」 ほんのりと嫌味と怒りを混ぜた声で、メインコンソールの前から答えたのは何故かラチェットだった。 「それより、早く行かないとオプティマスが間もなく現地に到着するぞ」 「なんだと!?」 「いったいどういう仕組みで感知するのか、今度解剖させてもらいたいものだ」 「と、とにかく行ってくる!」 なるほど、さっきの傾きはオプティマスが子供たちになにかあったと察知して、船のコントロールを放棄し出ていったからだったのか。 急がねば、子供の泣き声と「涙」どころの被害では済まなくなる。アイアンハイドはビークルモードで艦内を駆け抜けて宇宙へ飛び出し、それからプロトフォームに変形して地球を目指した。 |
「くだらんこと気にしてないでとっとと行け、ブラックアウト!」 いつもより更に癇に障る声でスタースクリームが怒鳴った。彼は本当ならばメガトロンが座っているはずのメインコンソールの前にいて、目を吊り上げている。 「スタースクリーム、なんでおまえが」 「いいから行けって! 親父が飛び出して行っちまったんだ! あの人のうちの子センサーは異常なんだから!」 なるほどと理解するなり、ブラックアウトは踵を返してハッチへ向かった。 さっきの大きな揺れは、いったいどういう仕組みか、「うちの子」になにかあったと感知したメガトロンが、船の制御をほったらかして飛び出したからなのだ。放っておけば確実に被害は拡大する。 ブラックアウトは、彼にしては珍しいジェット形態に変形し、地球へ向かった。 |
たぶん誰かがタバコのポイ捨てでもしたのか、それともなにか火花でも散ったのか。 アイアンハイドとブラックアウトは、破壊された上に黒煙を上げて燻る一帯と、怯えて身を寄せ合う人々、そして、すぐ傍のスタジアムから聞こえてくる重金属同士のぶつかる音、そこから伝わってくる地響きを確認する。
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「いったいどうした。なにがあった」 アイアンハイドは泣いているジャズとバンブルビーに近づき、傍に膝を折る。しかし子供たちはいっこう泣きやむ気配がない。 それに、これはどうしたことだろうか。ジャズの口元や肩、腹には、明らかに殴られた痕があった。 バンブルビーがこんなことをするはずはないし、人間ではこんな傷をつけること自体無理なのだから、やったのはバリケードだろう。 それはアイアンハイドにとって、にわかには信じられないことだった。 たしかにブラックアウトのところのバリケードは乱暴で口も悪い。短気ですぐ怒るし、うちの子と変わらないほど我が儘だ。だが、不思議と今までに一度も、この子たちを殴ったり蹴ったりしたことはないのである。 喧嘩になっても、手を出すのはむしろジャズのほうで、バリケードは押さえたり掴んだりしても、それ以上のことはしない。だからジャズの肩や腕に彼の爪痕がついていることは珍しくないが、こんな打撃痕は今まで一度も見たことがないのである。 「おいジャズ。そいつはどうしたんだ?」 「なぐられた……っ、あいつ……」 そしてまたボリュームが上がった。それにつられて、少しおさまりつつあったバンブルビーまでがまた泣き出した。ここまでいくと、聴覚レベルをダウンしなければとても耐えられない。そんな機能のない人間にとっては、すさまじい迷惑だろう。 そしてそのボリュームは、バリケードがパトカーの姿で走っていってしまうと、更に一段階上がったのだった。 |
ブラックアウトは泣いているバリケードの傍に屈んで、いったいどうしたものかと狼狽する。 バリケードが泣くなんてことは、千年に一度あるかどうかだ。生まれながらにやたらと短気で凶暴なこの子は、悲しいことがあっても、基本的には怒って大暴れする常なのである。 そして、こんなふうに泣くのは、それ以上に悲しいときやつらいときだけなのだ。事例が少ないので「たぶん」としか言いようがないが、一度だけあのメガトロンが「おまえなんかうちの子じゃない、出て行け!」と怒鳴ったときに、こんなふうに大泣きしたことがある。 それに匹敵するようなことでもあったというのだろうか。 分からない。分からないからとりあえずブラックアウトは、スコルポノックのおやつにと思ってとっておいたエネルゴン・キャンディを胸から取り出し、差し出した。 「ほら。これやるから、な? もう泣くな」 子供たちの魔法のおかし、エネルゴン・キャンディ。たいがいのことはこれでどうにかなる。しかし今回は、まったく逆効果だった。 ボリュームを更に2摘み分ほど大きくして、泣くというより吠えたバリケードは、ブラックアウトの手ごとキャンディを叩き払った。そしてビークルモードに変形すると、ものすごいスピードで走って行ってしまったのだ。 あとには唖然としたブラックアウトが取り残される。叩かれた手を押さえ、姿の見えなくなった道路を見やる。 (どうしたんだ、いったい……) |
一方その頃、スタジアムには火の玉が一つ落ち、ほぼ直角に降りてきたジェット機が華麗な曲線を描いて機首を上げ、それぞれがロボットの姿に変わった。 「うちの子を殴ったのは間違いないだろうが!」 グラウンドはめくれ上がり陥没し、客席は半壊。
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バリケードを探してくると言ってブラックアウトがヘリに変形し飛び立つ。 迷惑極まりない厄介な親父どもはとっとと船に追い返し、後にはラチェットとアイアンハイド、スタースクリームが残った。 アイアンハイドはジャズの体に見つけた打撃痕について伝える。こんなことは今までに一度もなかった、と。それに関しては、冷静な彼等の間では、たしかに不思議だと意見が一致する。 「ラチェット。心理学的になにか分からんのか? こういうケースはどうだとか」 アイアンハイドに問われ、ラチェットは腕を組む。 「私は精神科ではないのでな。しかし、あのバリケードが泣いていたことも合わせると、なにかしたのはジャズのほうではないかと思うのだが」 「だとしても、そう簡単に泣く奴じゃないぞ。いったいなにをしたっていうんだ?」 「ブラックアウトがなにか聞き出してくれるといいんだがな」 「どうだか。少しは懐いてるんだかないんだか」 「少なくとも君よりは仲がいいと聞いているがね」 「俺はあんなガキに付き合ってられんだけだ。バカデカい子供をもう一人抱えて、そいつの面倒見るだけで手一杯だ」 「ああ、それを言えば、私もか」 「おいおい、二人ともよせ」 アイアンハイドは苦笑いになる。 「ともかく、こちらはバンブルビーに事情を聞いてみよう。あの子はたぶん、なにかされたというより、二人が泣き出したせいで自分まで悲しくなっただけではないかと思うのでね。少し落ち着けばなにがあったか話してくれるはずだ」 「たしかに。じゃあ、すまんがそっちはそれで頼む。こっちは……あいつがなんとかしてくれれば一番ラクなんだが」 スタースクリームはブラックアウトの飛んでいった空を見て大きな溜め息をついた。 「俺たちはあいつらを連れて船に戻る。なにか分かったら連絡する。そっも頼む」 「ああ」 センチネルに宥められてようやく泣き止んだジャズとバンブルビーを連れて、ラチェットたちは船に戻っていった。 |
一人にしておくと不安だからと、ブラックアウトは他の三人にことわって、バリケードを探しに行くことにした。 |
親バカと言ったら、真っ当な親バカが一緒にするなと本気で嘆きそうな親バカぶりだが、子供を慰めるときには、これくらい圧倒的な愛情のほうがいいのだろう。 そのとき、船に突然来客があった。 スタースクリームは大きな溜め息をついて、ずいぶん複雑そうな顔をし、アイアンハイドの前に手を出した。 「たしか……今日は、誕生日なかったか、ジャズの」 セイバートロンの周期とはあまりに異なるため、今がいったいいつなのか、よく分からなくなる。地球にいる以上は地球のサイクルに合わせようとオプティマスが言うものだから、尚更だ。 なにがあったのか詳しいことは分からないが、たぶん、バリケードはこれをやろうと思ってやってきて、そこでなにか、すれ違いか、衝突かが起こってしまった。 スタースクリームはアイアンハイドの手を取ると、その手に二つの箱を乗せた。 そっと開けてみると、銀色の箱の中にはたくさんのキャンディ・キューブが入っていた。
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天岩戸だ。 スタースクリームもまた相変わらず我関せずの態度である。しかし今は彼が船の制御をしてくれているのだから、文句は言うまい。 『どうしたんだ? なにか分かったのか?』 「……バリケードは?」 返事はない。 どれくらいたっただろうか。実際には1分もなかったのかもしれない。
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船では相変わらず父親たちが通信相手にうちの子自慢を繰り広げ、公共電波で自分のバカを宣伝するんじゃないと、息子の一人に罵られている。 『発端はいつもの、キャンディの取り合いだったようだな』 もしこれが普段のことなら、いつもより少しだけ過激な口喧嘩だ。ジャズの口の悪さも大したものなのである。だから、いつもより少しだけ乱暴に衝突して終わったかもしれない。だがキャンディをあげるつもりで来ていたバリケードにとって、それは決して「いつもの」悪口ではなかった。
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「それは聞き捨てならんぞ。人間の理解を得られないのはおまえのところのバリケードが街を壊すからだろうが」 『それじゃあ、またな』 |
「なんだと!? もう一度言ってみろ!」 『それじゃあ、またな』 |
(おしまい★) 本気で出てきたアメちゃん妄想大・爆・裂!です。 ボッツ側はお父さん=オプティマス、長男=ラチェット、次男=アイアンハイド、三男=ジャズ、末っ子=バンブルビー。 あと、年をとると大きくなるとしたら、やがては8メートルとか10メートルのビーとかになるわけか……。 ちなみに皆さん、分かってらっしゃいますか? |