僕の、とんでもない友人たちの記録を、ここに残す。

 これを見つけた貴方に頼む。どうかこのフィルムを、未来へと引き継いでほしい。フィルムが劣化しているなら、今ある最高のメディアに移し変えて、必ず未来へ残してほしい。
 どうしてたかが映画にそんなにこだわるかって?
 それは―――信じがたいだろうが、彼等は実在するからだ。

 僕は本当に彼等に出会い、その姿をフィルムに収めた。
 もちろんいくつかのパートではCGを利用したが、ほとんどのシーンで、彼等は本物だ。
 オプティマスやバンブルビー、ラチェット、映画の中で善玉を演じているオートボットはもちろんとして、ディセプティコンの面々も、みんな、素晴らしい仲間だった。
 みんなでこの映画を創り上げた。決してCGじゃない。彼等は、本当に存在したんだ。遠い遠い星から地球に辿り着いて、十数年の間だったが(もっと早くに不時着していた者もいる)、彼等は本当にここにいた。僕たちと話をし、映画を創った。こっそり街を走っていたり、この空を飛んでいたりした。

 こんなことを言っても、誰も信じないだろう。僕だって、本当に会うことがなかったら決して信じやしない。だから、信じてほしいなんて言うつもりはない。
 だが、
夢見てほしい。
 夢見てほしいんだ。

 本当に彼等がいたら、すごくないか?
 映画を見てくれ。サムやミカエラが羨ましくないか? レノックスもいいよな。アイアンハイドが愛車だなんて、最高にタフでクールだ。僕は一作目でジャズを殺してしまったけど、生きていたら、エプスの愛車なんてのもいいと思っていた。ノリのいい二人だ。もしエプスが独身だったら、二人でナンパでもしたんじゃないだろうか。
 それで、どうだろう。君も彼等に乗ってみたい、友達になりたいと思わないか? ボンネットを軽く叩いて挨拶すると、目の前で変形するんだ。
 彼等はとても紳士的だから、僕らと話すときは膝をついて、少しでも顔の位置を近づけてくれたりする。困っていたら助けてくれる。力仕事はもちろん得意だ。いろんな調べ物も一瞬。でも、宿題の答えを聞いたって教えてはくれないぜ? その代わり、できるだけ分かりやすいように教えてくれるだろう。いろんなアイディアをくれたりもするし、なにせ何万年と生きているから、人生相談にだって乗ってくれる。
 君は誰がいい? やっぱりビーか? 僕は、実はここだけの話、アイアンハイドがお気に入りだ。乗り心地も最高だしね。

 でも、僕がこれを書いている今、彼等はもう地球にはいない。
 去ってしまった。仕方ない。そのことは、僕は最初からなんとなく、分かっていたから。

 彼等が今も地球のどこかにいるならともかく、いないんだから尚更、こんなことを書いたって信じてもらえやしないだろう。
 だがいつか、人類がもっと素晴らしい技術を手に入れ、それを使えるようになったら、そのときにはきっと、彼等の実在が証明されるんじゃないかと思う。彼等が地球に来ていた痕跡を、科学的に発見し、証明できるんじゃないかと思う。
 僕は心から、そんな日が来ることを期待している。
 そしていつか、未来のみんなが、彼等に会えることを願う。

 彼等は本当にすごかった。素晴らしかった。最高の友人たちだった。俳優としては、まあ、本職じゃないのだから、これだけやってくれたら上出来だ。
 ただ、オートボットのみんなにしてみれば、僕は最低の監督だっただろうな。嫌われているかもしれない。でも僕は妥協したくなかった。だって、こうしてここにあるのは僕の宝物だ。人類の宝物かもしれない。それを、「まあ別にそれでもいい」なんて気持ちで、妥協して作りたくなかったんだ。
 メガトロンは、そんな僕の気持ちをまるごと汲んでくれた。映画の中じゃ悪役で、しかも「ものすごい、最強の悪役」って感じでもなくなってしまったけど、実際にはすごいリーダーだった。誰からも尊敬されていた。オプティマスは、映画よりはずっと優しくて穏やかだ。台本の台詞が残酷すぎて、うまく言えなくて何度もNG出したりしてたね。彼はたとえフィクションでも、残酷なことはしたくないようだった。もしかすると、昔を思い出してしまうからだったかもしれない。バンブルビーは映画とほとんど同じか、もう少し子供っぽいかな。ジャズと一緒に悪戯して、オプティマスやラチェットに怒られていた。スタースクリームは、もしかすると中じゃ一番真面目だったかもしれない。メガトロンのことを本当に尊敬してて、だから僕のことは嫌いだったろうな。タトゥーシールを貼ってくれとか、腕をもがせてくれとか、無茶も言ったし。ブラックアウトも優しい奴だった。しかも、他の連中に比べると気が弱い。あんなデカい図体で、時々おろおろしてるのがおかしかった。でも、日差しが強い日にはいつの間にか傍にいて、僕たちのために日陰を作ってくれたりした。
 彼等のことを書いていたら、どれだけ書いても書き足りないくらいだ。だからこのへんにしておこう。

 

 かつて僕たちは、とんでもなくすごい驚きと興奮を味わった。
 僕は、いつか、誰か、もう一度彼等に出会えるようにと、祈りを込めて、これを残す。

 彼等が本当に存在するなんて、信じなくてもいいんだ。
 でも夢見てくれ。
 目を閉じて、それとも空を見上げて、それともやっぱり、道路を走る車を見ながら、想像してほしい。
 彼等が隣にいる世界。
 そんな世界にドキドキ、ワクワクして、彼等が本当にいたらいいのにと思ったら、その夢を、このフィルムを、僕のメッセージを、そして君のメッセージを、ずっとずっと、未来へと引き継いでいってほしい。
 いつか、彼等に届く日まで。

 僕は、そのためにこの映画を創り、そして、ここに残す。
 心踊る夢は時を超え、宇宙も超えて、いつかきっと彼等に届くと、それを信じて。

 

 

 

 

 


《余談》

 

 これは、「Blue Optimus」とのセットであり、「Someday...」とのセットでもあります。

 十数万年。
 彼等オートボットにも長い時が流れ、たとえばスタースクリームがいつかの約束を果たし、約束した以上の存在になるには、それくらいの時が必要でした。
 同時に、「数千年」ならともかく、万単位の時を、いったいどうやって人間が、思いを受け継いでいったのか。難題が立ちふさがりました。
 人間の宇宙航行技術は、ある程度で一度天井に突き当たってしまい、彼等が辿り着いた星まではとても届かないまま、長い時間を過ごすことになった、と設定できます。よくあるSFみたいに、たかだか百年単位の進歩で遠くの星まで辿り着けることは、実際にないのかもしれません。
 オプティマスたちが可能性を信じたように、より知的で調和的な種族へと成長できればこそ、滅びることはなかったとしても、でも、十数万年って、何世代? 人間は今と同じ姿をしてない可能性すらある。たとえ寿命が伸びていたとしても、千年はいかないだろう。
 そんな長い長い時間を、いったいどうやって、つないでいったのか。

 きっと、「ずっと」ではなかったと思います。
 途中で誰も知らなくなり、すべての人が忘れてしまったときもあったはずです。それこそ千年単位とかで。本当にいたんだと訴えて、頭がおかしくなったと思われた人もいたかしもしれません。もちろん、そんな妄想は伝えられることもなく、忘れられたでしょう。
 でも、なにか手掛かりを残した人がいて、誰かがそれを見つけ、―――でも、見つけたそれを、誰が信じるのでしょうか。
 リアルに彼等に会ったわけでもないなら尚更。

 にも関わらず、十数万年の時を超えることができた理由。
 難題に対して私が出した答え。
 それが、これです。

 

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