PAPAnic

 

 明かりの落とされた空間に、重低音の音楽が鳴り響く。それを打ち消し破壊する爆音。
 映画の醍醐味は大きなスクリーンと立派な音響設備による臨場感だが、ブラックアウトは、あまりうるさいのは好きではない。突然大きな音がしたりすると、つい体が竦んでしまう。残酷なシーンはとても正視できないし、悲しいシーンでは泣かないようにするのがまず無理で、それを誤魔化すのにも苦労する。映画は好きだから、映画館で見るのは格別だと思うが、なにを見るかは選びたい。
 しかも3D。ド派手なアクション。急展開に大音声、ガンガン鳴ってるロック調のBGM。やたらと吠える主人公に絶叫するヒロイン、とにかく爆発し破壊されるいろんなもの。タイヤがこっちに飛んでくると、思わず首を縮めて避けそうになる。迫力があるし、スリルもあって面白いけれど、勘弁してほしい。こういうのは部屋で一人で、誰にも気兼ねせず、自分の望む音量で見たいものである。
 それにしても、とブラックアウトは隣のシートを見る。バリケードは爆睡中だ。こんなにうるさいのに、よく平気で寝ていられると思う。彼は付き合いでここまで来たが、ハナから映画を見る気などない。だからシートも下げたままだ。アームレストが丁度いい高さで枕になるらしく、それに頭を預けている。主人公の乗った車が爆破された音にも、ぴくりとも動かない。

(昨日は夜勤だったからなぁ)
 ブラックアウトは昨日は日勤、そして今日は二人とも非番である。
 非番が重なるのは数カ月に一度くらいなので、当たり前のように約束をした。ブラックアウトは朝も早くからバリケードの住まいに行き、掃除、洗濯、炊事と片付けて、さて、昼からはどうしようかというところで、スタースクリームからの電話。いつもの賑やかしメンバーで遊びに出かけ、ビリヤードでもするつもりでいたが、たまたま観たい映画を見つけたから、一緒にどうだということだった。
 今日は一日一緒にいられる日だ。だから昼間くらいは彼等に付き合うか、とブラックアウトは考えた。それに、バリケードは放っておくと誰とも会おうとしない。たまには、職場の同僚以外の者にも会うべきだろう。そのメンツとして、スタースクリーム、ジャズ、バンブルビーという三人は悪くなかった。
 スタースクリームとは学生時代からの付き合いで、彼もまた(ブラックアウトとしてはあまり嬉しくないのだが)バリケードの世話を焼いていることがあるし、ジャズは相手の望む距離感を察知するのがうまい。バリケードにはあれこれ構うより、軽く話題を振るだけで参加を求めないほうがいいということをよく知っている。バンブルビーもまた、ジャズとはまったく違う方法で、相手が不愉快にならない距離を保つ。むしろ、相手がなんとなく心地良いと思う距離を不思議に保つ、と言っていい。バリケードも、彼等のことは特に嫌いではない。一緒に来ないかと言うと、少し考えて、たぶんブラックアウトの気遣いを無駄にしないことを選んだに違いない、行くと答えた。
 しかし、案の定というか、予想通りにこれだ。分かりきったことなので、誰も文句は言うまい。

 そっと友人たちをうかがってみると、スタースクリームはどうやら、この映画はお気に召さないらしい。つまらなそうな顔をしている。評論家気質の彼の場合、この「無闇やたらと派手でやかましい」のはマイナスに違いない。すぐ前の席にいるバンブルビーは、微笑ましいほど素直に驚いたり身を乗り出したりして楽しんでいる。ジャズはそのバンブルビーの抱えたポップコーンを横からつまみながら、シートの背もたれに深く体を預けて、やはりあまり楽しくなさそうだ。
 ブラックアウトは、映画が終わった後のことを考えて少し気が重くなった。スタースクリームとジャズが、映画の評論合戦をはじめなければいいのだがと思う。面白ければいい。ジャズは単純な楽しみ方をする。しかしイマイチだと思った場合は、スタースクリームの批評に乗ってきたり反対したりする。二人にとってはそうやって意見を戦わせるのも娯楽かもしれない。しかしバンブルビーはそれについていけないし、ブラックアウト自身も、「そんなこと別にどっちでもいいと思うけど」と思うことのほうが多い。自分が気に入ったものを批判されては、バンブルビーもどういう態度でいればいいのか戸惑うだろう。そして、バリケードが不機嫌になる確率は、非常に高い。
(バリケードがストッパーになればいいんだけど)
 彼を怒らせたくないという理由で、あまりとやかく言わないでいてくれると助かる。ブラックアウトは、小さいながらもこの中で一番凶暴な、自分の恋人(たぶん)を見下ろした。

 そのときたまたま、通路を登ってシアター内に入ってきた影が見えた。
 誰か手洗いにでも立っていたのだろう。そう思ったが、その人物が席を探すようにし、自分たちの座っている列に入ってきて、驚く。公開日からだいぶたった映画は、ほとんど貸切に等しいくらい人がいない常だ。この作品も、自分たちの他は数組くらいしか観客がいなかった。だから、この列に座っているのは自分たち二人と、自分の隣を一つあけてスタースクリームだけだったはずである。
 映画はもう終盤に差し掛かる時間だというのに、まさか今から、たった30分を見るつもりなのだろうか。
(係員の人ってこともあるけど……)
 時々、違法撮影の監視のために、観客以外が座っていることもある。しかしそれにしても、こんな時間に。確認するならもっと早い段階で行うはずである。
 しかも、だ。これだけガラガラ、空席だらけのシアターで、どうしてわざわざ、人がいるすぐ隣の席など選ぶのだろうか。スーツ姿、長身の男は、バリケードのすぐ隣のシートを下ろして腰掛けた。
 そして。
「……ッ!?」
 危うく、ブラックアウトは大声を上げ、立ち上がるところだった。少なくとも腰は浮いた。
 何故なら、あろうことかその男は、隣にいた、というか「間にいた」バリケードをひょいと抱え上げると、自分の膝の上に置いたのである。

(ええエェぇぇぇェェッ!?!? なっ、なんだそれ!?)
 挙げ句、頬ずりまで。
 新手の変態か。
 大胆すぎるにも程がある。
「ちょっと……」
 できるだけ声をひそめ、ブラックアウトはその変態さんに抗議することにした。これは抗議でもあるが、彼の身の安全のための警告でもある。
 しかし時既に遅し。さすがに持ち上げられてまで寝続けるほど神経がないわけではないバリケードは目を覚ましていた。時限爆弾のスイッチがオンに倒れ、カウントダウン開始。自分が他人の膝の上に抱えられていることを知って顔を上に振り向ける。ここが公共の場だとか、自分たち以外にも映画を見てる人がいるとか、考慮してくれるかどうかは分の悪い博打だ。
 ―――だがしかし、バリケードは逃れようとしたが、その男に離すつもりがないことを察すると、あっさりと諦めてしまった。

(な……なっ、なッ、なんだそれ!? ちょっ、バリケード!?)
 バリケードが今どんな心情でいるのか、姿はスーツの男の腕に隠れてまったく見えない。しかもその男、映画などこれっぽっちも見ないで、見ているのは自分の腕の中のものだけだ。スクリーンの光に照らされて、その壮年の紳士の整った顔立ちがよく見えるのだが、彼はいかにも嬉しそうに幸せそうに、撫でたり、頬を寄せたり、トドメとばかりに、キスしたり。
 ブラックアウトの意識こそ、名前通りブラックアウト寸前だった。

 スタッフロールが流れる。出て行く者もいる。しかし最近はスタッフロール中やその後に、オマケのシーンがあることも珍しくない。それが次回作を匂わせることもあるので、自分たちはたいがい、最後まで見ていく。スタースクリームは俳優や監督以外のスタッフにも興味があるので尚更だ。
 ブラックアウトはどうにか意識と自制心を取り戻し、そっと、できるならスタースクリームにも気づかれないといいと思いつつ、席をひとつ空けた隣の紳士の腕を掴んだ。
 彼は少し驚いた顔をしてこちらを向く。すると、彼のすぐ顎の下で、小さな頭が動いて、
「友達だ」
 と言った。
(トモダチッ!?)
 普段ならいい。人前で「恋人だ」とか「彼氏だ」と言ってもらえないのは分かってる。そもそもそんなふうに思ってくれているのかも微妙である。だがしかし今そのシチュエーションではっきりと友達と言うのか。
 あまりにも他愛ない言葉で紹介され愕然とするブラックアウトに対して、謎の紳士はまた少し驚いて、そして満面の笑顔になり、握手を求め手を差し出してきた。そんな手は叩き払いたいブラックアウト、しかし哀しいかな、ほとんど反射的に握手してしまっていた。
 そして今度はブラックアウトが驚く番だった。
「いつも息子が世話になっているんだな。ありがとう」
 紳士はそう言ったのだ。

 

 バリパパ登場。
 これは映画の内容も感想も、完膚なきまで消し飛ばす威力があった。(実際、後に映画はどうだったと聞かれて、誰もなにも覚えていなかったくらいである。ドカーン・ギャー・ヒエー・イェーくらいしか)
「正直に言っていいか。おまえ、いや、俺はてっきり、おまえに親っていうのは、いないか、いても相当縁遠いと思ってたんだけど」
 とはスタースクリームである。
 それはブラックアウトも思った。ジャズとバンブルビーは知らないだろうが、バリケードはジュニアハイのときから一人暮らしである。その頃は三者面談だろうがなんだろうが、「親」らしき人物を見たことがある者はなかったし、シニアハイではブラックアウトがアパートに遊びに……掃除に行っている。確実に一人暮らしだった。誰もはっきりと聞いたことはなかった。聞いてはいけないような気がして聞けなかった。なにせ狂犬扱いも致し方ないような危険な性格の持ち主のこと。親子の縁は切られてしまったのかもしれない、といった想像もあって、誰もその話題に触れられなかったのである。
「ていうか、スタースクリーム、親っていったって、見た目的に……ありえないじゃん」
 見た目的に。
 そう、ジャズが言いづらそうにそっと触れたように、見た目的に完璧に、紳士はギガト、その中でも特に長身だし(ブラックアウトは自分より大柄な者を久しぶりに見たくらいだ)、バリケードはバンブルビーやジャズと同じく、ナノトである。遺伝子的に、ギガトの親からナノトは生まれないし、ハーフというものも、生物学的に無理なのだろう、誕生したことはないはずである。
 これは非常に触れづらい話題。今の今まで、触れづらいから触れてこなかった話題である。
 しかし紳士はあっさりと、
「ああ、養子だ。たしか、6歳のときだったな」
 と答えた。

「でも、少なくとも俺が知ってる限りじゃ、バリケードはずっと一人暮らししてただろう」
 ブラックアウトの声には非難が混じる。無理もない。一応でも「立場」があるし、なにより、紳士は未だにバリケードを離さない。たしかに、ギガトから見ればナノトは、大人になったところでギガトの児童くらいの大きさかもしれないが、いい年をした大人を、小さいからといって(?)映画館で掴まえて以来一度も地面に下ろしていないのである。そして、
(なんでおとなしくそんなとこにいるんだよっ)
 バリケードは少し困惑しているようだが、特に不機嫌になるでもなく、スタースクリームやジャズの、ささやかな好奇の視線に対して不愉快も覚えないらしい。仕方ないと諦めたような様子だ。
 ありえない。
 相手が父親だとしても、たとえ本音としてはこういうのか嫌いではないとしても、
(そんなこと言ったら俺はッ!?)
 ブラックアウトが人前で「いちゃいちゃ」しようとすれば、ものすごい目で睨まれるのである。つい恨み節になるのは当然だろう。
 しかしそんな質問(一人暮らししていたではないか、なんで放っておいたんだ、という非難)は、それはそれで立派な自爆装置だった。
「本当はずっと一緒にいたかったんだがな。しかし私は忙しかったし、可愛い子には旅させろとも言う。社会性を身につけるのには、思い切って一人で暮らさせるのもいいかと思ったんだよ。そのための準備も整ったし……。しかし、それでも最初の頃は心配で心配で、衛星作ってトレースしようかとも思ったが、四六時中見張られたらいい気分はしないだろうしな。まさに断腸の思いだった。それに、父さんはいっぱいメール送るのに、今も昔も全然返事をくれないし」
「いらないって言っただろう」
「だがたまには、元気にしてるって一言くらい……、まあ、会ったときにちゃんと元気なら、それでいいんだがな」
 うん、とひとり頷いて、相変わらずこの紳士はパーフェクトに人目をはばからない。ブラックアウトは、なにもそこまで溺愛しなくても、というところを情け容赦なく見せつけられただけである。

「てか、ちょっと。ちょっと待った。今なんか、サラッとものすごいこと言わなかった? おじさん」
 ジャズが滑りこむ。
 スタースクリームが頷く。
「なんだ? なにか変なことでも言ったか」
「いや、今言いましたよね? 『衛星作って』って」
「ああ。……ああ! そうか。そうだな。普通は作らないか」
「っていうか作れないよ普通! 衛星作るって、ちょっと待って。おじさん、いったいなにしてる人?」
 うんうん、とバンブルビーも頷いている。
 ブラックアウトは、ぶっちゃけそんなことはどうでもいいが、たしかに「衛星を作る」というのは……いい加減離してこっちに寄越せ、ということに比べればやっぱり別にどうでもいい。
「なにと言われても困るが……。いろいろしてる人、だな」
「いろいろって、衛星も作るんですか?」
「作ったことはないが、作れるんじゃないかな」
「だから普通作れないって! なに、宇宙開発局とか、宇宙工学の研究所に勤めてるとか、なんかそういう人?」
「そうじゃないが……。難しいな、私の仕事の説明は。本当にいろいろやってるから。あえて言うなら、そういう『いろいろ』をやるのに、人を集めたり、それにお金を出したり、監督したり、運用したり、相談を受けたり、決定したり、たまには自分で企画、計画したり、交渉したり、が仕事かな」
「えーっと……つまり、どっかのでっかい会社の社長さん?」
「まあそんな感じだ」
 あまりにも要領を得ない返事。しかしどうやら本人は、はぐらかそうとしているわけではないらしい。そのまどろっこしい会話に我慢できなくなったのは、やはりバリケードだった。
 そして彼はあっさりと言う。やはり案外とんでもないことを。
「……分かりやすく言えば、DCP財団の総帥だ」
 と。

 言葉の意味を理解するまで、沈黙の3秒間。
 そしてやっぱり、無言の5秒間。驚くにしても、声も出ない。
 ジャズは目を見開き、スタースクリームは口を開けて固まっている。今挙げた「名前」からは素性が分からなかったらしいバンブルビーとブラックアウトは、「ん? なんかすごい会社?」「は? なんだそのご大層な名前」という様子である。
 そんな二人を見て、スタースクリームは思わずテーブルに身を乗り出した。
「馬鹿っ! この世の中の半分を持ってるのと同義だ! 電子機器から製鉄、保険、福祉事業に運輸業、通信、それこそ宇宙開発に物理学の研究所まで、やってる会社のどれか一つくらいは必ずDCPの傘下って言ってもいい。もっと分かりやすく言えば、『世界で有数の大金持ち』! つか、俺らの行ってた学校だってDCPが建てたモンだよ! そういや理事長室に写真あったようななかったような……」
「写真? それはちょっと恥ずかしいな。本当にあるならはずしてもらおうか」
「恥ずかしいとかって問題じゃないっておじさん! てか、なんでそんな人が親父さんなわけ!? ていうかむしろ、なんでそんな親父さんがいるのにフツーにのほほんと暮らしてんだよアンタ!?」
「俺は俺だ。関係ない」
「関係ない!? なんてこと言うんだバリケード!」
「ぐっ」
「父さんこんなにおまえのこと心配してるし大好きなのに、関係ないなんてそれはないぞ!? 今日だって空港から真っ先におまえのこと探してここに来たのに!」
「お父さん、お父様、チョーク、チョーク入ってます」
「ああっ、すまない、バリケードっ」

(つまり……)
 ブラックアウトはようやく少し落ち着いた。つまりこの人は、なにやらすごい会社の一番偉い人らしく、そのために今まで、バリケードとはほとんど一緒にいることができなかったということだ。だから、たまに帰ってきたときには、普段一緒にいられない分も溺愛するのだろう。
 それに、少し前まではジェラシックなきもちばかりざわめいていたが、今は、こうだ。
(そんなに大事にしてくれるお父さんがいて、良かったな)
 人目などそっちのけで、可愛がって可愛がって可愛がる。少し寂しいが、バリケードがそれで幸せだったり、癒されたりするなら、それでいい。それに、人前だなんだと拒絶しないのも、なんとなく分かった。ここまで常識を突き破ったことをされると、抵抗のしようがないのだろう。諦めて、受け入れるしかない。
 負けたような気がして、少し寂しいのだが。

 三日間、彼はこの街にいられるという。それは非常に珍しいことだった。ここ何年もの間、顔を合わせることもなかったほどである。最後に会ったのは5年ほど前、しかもたった2時間。近年は特に忙しくしていたらしい。
 もう少し早く分かっていれば有休をとるなりできたのだが、直近ではどうしようもない。その気になれば一警察官の休みなどどうとでもできるのだろうが、非常識極まりないようでいて、彼はその無茶は押し通さなかった。ただ、勤務時間外は一緒に過ごしたい、というだけである。
 非番が重なったから、などというのは、その前では実に他愛もない、吹けば飛ぶような理由だ。
「めったにないことなら、たまにはお父さんとゆっくり過ごしたらどうだ?」
 ブラックアウトは自分からそう言った。今夜の約束は、また別の日でもいい。それはどんなに遠くても、数ヶ月程度先に延びるだけである。それに、仕事中でも同じ場所にいることはできる。世界中飛び回っていて、この国に寄ることも月に一度あるかないか、などという人に譲るのは、当然だろう。
 スタースクリームは「このお人好し」という目で見てきたが、仕方ない。バリケードは態度に出さないし、本音はどう思っているのか分からないが、この非常識……超常識な父親といるのが嫌なわけではないようである。
 結局―――やはりとても負けた気はするし、どう足掻いても勝てないような気もするが、一番だろうと二番だろうと(三番は絶対に却下)、バリケードが幸せならそれでいいのだ、ブラックアウトとしては。「本当にいいのか?」という視線だけで、嬉しくなるくらいに。
「友達と遊ぶ予定だったんだろう? いいのか? 良かったら父さん、家で待ってるぞ?」
「……いい」
「そうか。それじゃあ、今日は父さんがご飯作ってやろう。その前に買い物だな。なにかほしいものはないか?」
 その気になれば島どころか国さえ買えそうな男の発言だが、バリケードは、
「いや。別にない。壊れてるものないし」
 素晴らしく謙虚というか、勿体無い生き方かもしれない。
 そして、そこで車でもなんでもなどとは言わず、あっさりと「そうか」と言える億万長者には、誰しも少し敬意と好感を覚えた。

 

「まあ、……すごい親父だな、ありゃ。おまえンとこのじいちゃんもたいがいすごいけどさ」
「じいちゃんもかなりぶっ飛んでるけど、あれには勝てないだろうな」
 ジャズとスタースクリームの会話に、バンブルビーは手話で「いいお父さん」とやった。
「で、ブラックアウト、本当に良かったのか?」
「俺は明日また会えるし、明後日も明明後日も、その気になればいつでも顔を見れるのに? いくら俺でも、そこまで独占欲だけで生きてない」
「それはそうだろうけどな。でも、いつか言えるのかねぇ? 息子さんを俺にくださいって。ハードル高くないか?」
「う。それは……」
 比べられたら何一つ勝てる要素がないような気はするし、あれほどとんでもない人に(いろんな意味で)認められることができるのかどうか、甚だ不安だが、
「でも、どんな人が親でも、それで俺の気持ちが変わるわけじゃないし、いつかは言うよ。もし駄目なら、許してもらえるまで努力するしかない」
「おーおー、前向きだねぇ。ていうかサラリと惚気けてくれちゃって」
「惚気けって……。そういうわけじゃ」
 バンブルビーが「大丈夫」と手を動かした。

 

 

(おわり)


 

 最後まで名前が出ませんでしたが、ええ、メガ様ですよ!

 このシリーズは「バリケードが愛されてればそれでいい」くらいの勢いなので、最大最強の人を義理パパにしてしまいました。……ていうか、そうでもしないと登場させようがないよメガ様。
 軍人では出番なし、政治家でもやっぱり一般的な世界では出番なし、でもメガ様ほどの存在がちょっとした会社の社長とかありえないし! サイバトロンとディセプティコンがセイバートロンの二大勢力なら、いっそこの世界でも、世界を二分できる存在であればいい!という次第で、とんでもない人になりました。本物のそういうクラス、次元の人がどんな仕事してるかなんて知りませんけど、いいの、メガ様ならなんでもかんでも規格外だから。

 設定についていくつかオマケ、蛇足を。
 デカいサイズの人を「ギガト」、小さいサイズの人は「ナノト」と呼ぶようにしました。本当はギガス・ナノスというほうがしっくり来るんですが、これは、秋田書店チャンピオンコミックス、所十三さんの「竜の国のユタ」とかとまったく同じ呼び方なのです。イメージ的には同じだとしても、そのまま使うのはさすがに控えたく、「人」という文字をあてはめるつもりでギガト・ナノトに。
 で、子供はギガギガかナノナノからしか生まれないことにしました。で、ギカの子は当然ギガ。なので、ギガトであるメガ様から、ナノトは絶対に生まれません。ちなみにメガ様は独身ですよ?
 養子。じゃあ実の親は? というあたりは、このシリーズがもっともっと増えれば、もしかするとその中の一部として書くかもしれませんし、それでも書かないかもしれません。設定はありますけど。なんにせよ、バリケードもスタスクと同じで、養子ちゃんです。じぃじとパパに溺愛されていればいい。ちなみにメガ様は、じぃじの冒険のスポンサーやったことある設定。
 メガ様は常に息子爆愛です。人工衛星作って打ち上げて専門に監視(観察)しようかなんて真面目に考える変な人です。他の人に損をさせたり迷惑かけたりしないのであれば、という条件でどんなことでもします。なので有休の無理やり取得とかはさせません。代わりに出勤する人、スケジュールの調整する人が大変だから。でも衛星作って私用しても、関連企業は経済的に潤うし、まあいいんじゃね?くらいで。
 爆愛すぎて、ジュニアハイまではずーっと連れて歩いてました。片時も離さずに。ナノトの子供なんて、バックパックどころかウエストポーチに入るサイズです。ちなみに久しぶり過ぎて設定をお忘れかもしれませんが、ギガトの成人男性は平均身長が210cmくらい、ナノトは130cmくらいです。メガ様は230cmくらいで、ギガトの中でもかなりの長身です。6歳くらいのナノトであれば、下手するとコートなどの大きめなポケットにすら入るかもしれません。
 そして、引きとってから一人で暮らさせるまでの間に「準備を整えて」ました。なにしてたかというと、学校を作っていたのです、自分の息子を通わせるための。過激すぎる性質の子に、それでも真っ当に社会生活営ませられるよう、受け入れて教育、指導できる学校。そんなもの既存ではなかったので、作ったのです。

 そういう、超・規格外パパの登場ですが、さてはて、ブラットさんはいったいいつになったら「友達」じゃなく「恋人」と紹介してもらえるのか?
 ちなみにバリケードは、スタスクらのことは「同級生と、その知り合い」と紹介するでしょう。友達ですらねぇ(笑