先生がね、目標と夢とは違うって言ったのよ。前にも聞いたことある言葉でさ。ほら、貴方も聞いたことない? 「これは俺の夢だ」なんて言ってる間は実現しない、夢を叶える人にとって「それ」は、明確な目標なんだ、とかさ。 そう。私もそう思ったの。 けどね、先生が言ったことは違ったの。 目標っていうのは実際に役立てるためのもので、夢っていうのは、人生を豊かにする星なんだって。目標っていうと、やらなきゃ、って感じがするじゃない? そういうののない、星みたいなのが夢なんだって。 まあ、考え方の違いなんだけどさ。
それで、前にセミナーに来た人の話を紹介してくれたの。 医者になりたいっていう人のね。医大を卒業して、しばらくは病院で働いて、いずれは自分で開業して……、って、そういうものを「夢」として先生に話した人のこと。 それで先生が、「医者として成功して、財産ができたらなにをしたいの?」って聞いたんだって。そうしたら、その人は「たっぷりお金をかせいだら、ヨットでカリブ海を横断するんだ」って言ったんだって。熱っぽく、目をきらきらさせてね。 先生が言うには、それが本当の「夢」、人生を豊かにする星なんだって。医者になるっていうのは目標でしかないんだって。 そういう「夢」が大事なんだって。
それでね、その後先生が、イメージしてごらんなさい、って言ったの。素敵なコテージ風、あるいは近代的な家、お気に入りばかり集めた家具、やりたかった仕事をしている私。夢の生活をしている自分を想像してご覧なさいって。 言われるとおりに想像してみたわ。お金もたくさんあって、広すぎもせず、狭くはない家で、こんなありきたりな家と部屋なんかじゃなくて、山奥のロッジのようなね。静かな環境。でも、車で山を降りれば大きい町があるところよ。大きな犬も飼いたい。美味しいものが食べたいから、そういうのを作れるようになっているの。エアコンなんかないほうがいいわ。だから、そんなものがなくても、暑すぎたり寒すぎたりしないほうがいい。寒かったら暖炉ね。管理が面倒だっていうけど、その頃の私はあくせく働かなくてもいいの。だって、私の夢って一流の画家なんだから。素敵なもので心を一杯にして、思う存分、好きな絵を描くの。ものすごい値段なんかつかなくてもいいから、とっても気に入ってくれる人がいればそれでいい。評論家とかはカットね。雑念で邪魔されたくないの。 実現できるかどうか、なんて後でいいのよ。こうやって思い描くの。それで、そのために必要なことを、小さな目標にすればいいのよ。料理を練習する、とかね。 イメージして、うっとりしたわ。
でもね、そんな時に、私の中から声がしたの。 「本当にそれで幸せなの? 本当にそんなものがほしいの?」 って……。
―――そんなものより、私のことを、大好きだって言って包んでくれる人がほしかった。 うんと甘やかしてくれて、うんと大切にしてくれて、うんと愛してくれる人。 完璧じゃなくていいから、たまには喧嘩になったりしてもいいし、怒ったりしてもいいから、結局は私のことが一番好きな人。私も一番好きな人。 お金なんかいらない。絵なんか売れなくてもいい。家も今のままでいい。そんな人がいてくれたら……そんな人がいるんじゃないなら……。 なんだか泣けてきちゃった。私の本当にほしいものってそれだったんだって思ったら、どうしてだか。馬鹿みたいで。他にどんなものがあったって、どうしようもないのよね……。
はあ。 ……もう寝るわ。 おやすみ、チャッキー……。
(fin) |