Grad to meet you

 誕生日。
 夏美のそれを過ごした日から、ケロロ小隊はほんの少しだけ変化した。
 今までは特に意味もなかった「生まれた日」。それが本当は、ひょっともするとちょっとだけ、けっこう案外他の日とは違う大切な日なのかもしれない。そんな思いが、大なり小なり生まれたのである。

 基地入り口でもあるケロロの部屋には、一枚のカレンダーがかけてある。
 下半分にはその月の日付がずらりと並び、上にはきれいなイラスト。もちろん、ガンダム。
 これは地球周期におけるケロロの誕生日、12/9がもう終わろうという23:48に、ケロロがこの部屋の入り口で見つけたものだ。
(夏美殿はみんなにお祝いしてもらえたのに、なんで我輩はダメなの?)
 とその時ばかりは本当にしょんぼりと落ち込んでいた。ちょっとやそっとでは立ち直れないほど、ケロロは落ち込んでいた。今まで味わったことがないほど寂しかった。オイシイ思いをできなかったとか、そういう残念さとは全く違っていた。
 お祝いしてもらえるはずのこの日。
 いや。
 ちょっと特別なはずのこの日。
(我輩のアピールの仕方がまずかったの?)
 無視されてしまったのは、本当に哀しくて心がしおれそうだった。

 夏美の誕生パーティを無心に企画したように、ケロロには実は下心というほどのものはなかった。
 誰かが生まれたその日、なんだかちょっとおめでたい感じのする特別な日、みんなからおめでとうと言ってもらって、プレゼントをもらって、美味しいケーキや料理を食べる。
 よーし次は我輩の番だぞ、何日かみんなに教えておかなくちゃ。
 ケロロが考えたのはその程度のことだった。
 本当にそれくらいのことで、夏美のパーティを企画した時と同じくらい無心で、
(そういえば我輩、みんなの誕生日を知らないんだっけ。こっそり調べて、ドッキリパーティ第二弾、ガツンと食らわせてびっくりさせてやるなんてどうよ!? いいじゃんいいじゃん、我輩サイコー!!)
 ―――それっくらい、無心だったのだ。
 なのに。

 腹も立たないくらい寂しくて、とぼとぼと部屋に入ろうとした時、部屋の前に大きな封筒が一枚、捨てられていた。
 なんだろうと思って見下ろすと、その封筒には夏美の文字で「ボケガエルへ」と書かれていた。
 少しだけドキンとした。
 まさか、もしや、ひょっとして?
 そろそろとしゃがんで封筒を取り上げ、裏を見る。そこにはなにも書かれていない。
 厚紙のような冊子のようなものが入っていることは封筒の上からでも分かった。
(う。期待するのやめとこ。この上当番表なんかだったら我輩……)
 新しい当番表だぞ、と思って見れば、本当にそうでもダメージは少ない。
 ケロロはそうっと封筒を破ってみた。

 そこから出てきたのがこのカレンダーだった。
 幻覚じゃなかろうかと掲げ持った時、はらりと舞い落ちた一枚のメモには、冬樹の文字で短い手紙が書かれていた。
『ごめんね軍そう。今ちょうどおこづかい日の前だし、姉ちゃんのプレゼントでお金なくなっちゃったんだ。本当はプラモデルにしたかったんだけど、今年はこれで許して。そのかわり来年はみんなでパーティしようね。約束だよ。―――冬樹』
 カレンダーを濡らさないようにたっぷり1時間くらいは嬉し泣きをして、カレンダーは翌年の元日から、この部屋にかけられている。
(来年……来年の今頃も、我輩、冬樹殿たちと一緒にいられるのかな……)
 そんなちょっぴりの不安と共に。

 

(おしまい?)