re-birth

 二度目の、ボルテクス界。
 俺の記憶におぼろげに残ってる、あの時のこと。

 俺はあの時、カグツチを倒した。崩壊していくカグツチがなにを言っていたのかは、もうまるで覚えていない。
 ただ、気がついた時俺は、人間だった。
 世界は全て元通りで、まるでなにもなかったかのように動いていた。
 夢と思うには強烈すぎる出来事。
 なにより俺の体が、当たり前の人間の体にひどい違和感を感じていた。
 人間としてまた目覚めた時、こう考えたことだけははっきりと覚えている。
 世界は、同じ輪の中でまたやり直すのか―――。

 裕子先生がいて、千晶がいて、勇がいた。調べれば、氷川がいることも聖がいることも分かった。
 みんなはどうなのか知らないが、俺には夢のように次第に薄れながらも、決して消えない記憶があった。
 ボルテクス界で起こったこと。
 千晶も勇も、俺だって元から大親友と思っていたわけじゃない。千晶とはただの幼馴染で、あれこれと言いつけてくるのも、逆らうよりは従うほうが面倒がなくていいから、聞いてきただけだ。顔だけならけっこうかわいいのに、好きだと思ったことは一度もない。勇も同じだ。時々はいい加減にしろよと思いながら、絶交するほどのこともないからツルんでいた。勇がいないと困ると思ったことは、一度もなかった。
 だから、ボルテクス界で二人してコトワリだのと言い出して、俺のことを従わないなら殺して当然と敵対した記憶があっては、とてもじゃないが元のように付き合うことはできなかった。
 ただ、それでも俺は、わざわざトゲトゲしていさかいを起こして振り回されるのは御免だったから、
「この頃素っ気無くない?」
 と責めるように千晶に言われても、あからさまな態度にだけは出さなかった。

 時は戻り、そこからまた進みはじめた。
 俺にはなんとなく期待があった。
 あの日が来れば、また世界は氷川の手によって一度死ぬのかもしれない。そしてボルテクス界へと変わるのかもしれない。もしそうならば、俺がその流れに従うかぎり、もう一度人修羅という形であの世界に生きることも叶うし、二度目ならばなにか、あの時にはできなかったことができるのかもしれない。
 だから俺は、辛抱強くあの日が来るのを待っていた。
 俺がもう一度、半人半魔になれる日を。

 これも一種の逃避かもしれない。
 勝手気侭にしたいというのは、実を言えばどのコトワリでも同じだった。そういう形で今ある世界から逃避しているのも、全て同じだと思った。
 俺もたぶん同じだ。ただ、求めるものが違うというだけで、彼等と同じだ。
 俺が求めるのは、好きなように好きなことをすればいいという自由。他人が気に食わないならば殴ればいい、殺せばいい。好きな人がいるなら守ればいい。仲良くしたいならばすればいいし、一人でいたいなら一人でいればいい。全ての存在は皆、自分の力に応じただけの自由を手に入れられる世界。
 それは丁度、あのボルテクス界そのものだった。

 優れた者しか必要ないと言った千晶は、劣った者、力ない者はいらないと排除しにかかったが、それも千晶の自由。抗うのも自由だ。俺がヨスガを気に入らなかったのは、力ない者は排除せねばならなかったからだ。そんな義務、いましめは、いらなかった。
 誰とも関わりたくないといった勇は、アマラ経絡の中で気侭に過ごした。それも勇の自由。けれど人恋しくなったら誰かに会うのも自由だ。ムスビを否定したのは、一人でいなければならない、干渉してはならない、というルールの存在のせいだ。
 世界の構成要素としてただ静かに息をし、過ごし、死んでいくべきだと言った氷川の、それも自由。逆に世界を引っ掻き回すのだって自由。なにもできない世界なんかにいても、生きているとは言えない気がして、シジマも嫌だった。

 俺にはボルテクス界こそ理想だった。そこである程度の力を持ち、それを高めることができればこそだったが、ともかく俺にはあの世界が最高だった。
 カグツチを倒してしまえば、このままボルテクス界が続くのかもしれない、と思って戦ったが、甘かった。
 誰も彼もが、元の人間世界に戻された。

 だが、再び受胎が起こった。
 もう一度金髪のぼっちゃんと付き添いのばあさんが現れて、もう一度俺に悪魔の力をくれた。
 それはまだ弱々しいものだったが、俺には分かっている。死ぬことなくこの力を高めていけば、もう一度あの高い塔の極みにまで行ける。
 そして俺は、覚えているだけじゃなく、この世界についてなんとなく理解もしていた。
 世界各地で神と呼ばれ魔と呼ばれる存在たちが、「悪魔」として当たり前に存在しているこの世界。強烈な意識は、実在する存在へとつながる。だから人々の信仰や恐れの対象となった存在、大勢の人間に強く意識された存在が、実体化して「悪魔」と呼ばれ、うろついていたのだ。
 それなら、俺の記憶、俺の意識も、なんらかの力に助けられれば、実体化するだろう。

 そう思う俺には、ひとつだけ目的がある。
 もう一度あいつらと共に旅をすること、戦うこと。
 今の俺ではまだまだ力不足で、たとえあいつらが構わないといってくれるとしても、俺自身が許せない。対等以下なんて、冗談じゃない。
 この世界で、もう一度俺は生きてみる。
 なにを目的とするかは俺の自由だ。指図は受けない。
 だったら、とりあえずどんなことより、あいつらにもう一度会うことを目指そう。
 そう決めて俺は、再び生まれ変わった病室を後にした。

 

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