夜に飛ぶ鳥

 夜に飛ぶ鳥を見た。
 濃藍色の空をふっとよぎった影に仰向くと、翼を水平に開いたまま、ゆっくりと滑って行く姿があった。
 街の中に明かりが絶えることはないが、街灯が立ち並ぶような場所でもない、田畑と住宅地の真ん中だ。
 電線をなぞるように行く影とすれ違い、足を止めて振り仰ぎ、振り返ると、もうそこに鳥の姿はなかった。
 私の見間違いだろうか?
 こんな暗がりに飛ぶ鳥はいないかもしれない。
 しばし空にその影を探したが、やはり何処にも見つからなかった。

 もしあれが私の見た幻ならば。
 きっと私は夜に飛ぶ鳥のように、馴染まぬ場所であっても悠然と翼を広げ、馴染まぬ場所すら自在に飛びたいと思っているのだろう。
 もしあれが本当の鳥であれば。
 夜に飛ぶ鳥がいるならば、私は彼の同属になりたいと願う―――。


(終)