銭形とルパン

 次元は強い。五右衛門も強い。戦闘能力だけを言えば、ルパン以上だと思う。早撃ち0.3秒でライフル射撃の腕も抜群(555mだっけか)。刀そのものが業物でも、弾丸さえ見切って斬る腕は五右衛門のものだ。
 しかし、知恵や機転、閃き、その他身体能力を総合すると、やはり彼等ではルパンに勝てないのだろうなと思う。特に頭の部分で。
 二人とも古典的というか伝統的というか、保守的なタイプだし。

 いわゆる総合的「最強」の位置にいるのがルパンだとすると、それに唯一張り合えるのは、次元でも五右衛門でもなく、ただとっつぁんなのだと、私は、思っている。
 IQなんかを言えば決して高くはないだろうし、保守的も保守的かもしれないが、とっつぁんには不屈の闘志と根性、忍耐力に粘り強さがある。これらは、盗みに必死にはならない次元たちには持てない強さだ。
 そして、実はとっつぁんはものすごい凄腕なのである。
 ルパンにだけは勝てないが、ルパン以外のその辺の犯罪者なんか片手であしらえるくらいの敏腕警部、これが、原作本来の銭形。
 それがアニメではどんどん「間抜けなやられキャラ」になっていった。引き立て役にされてしまった。

 外見的なかっこよさを言えば、それは次元や五右衛門のほうが二枚目だろう。
 が、総合的なかっこよさは、私の中ではとっつぁんがダントツだったりする。
 そんな私は当然、「DEAD OR ALIVE」が大好きだ。ルパンに出し抜かれはするものの、序盤ではヒロインを姫に化けさせてルパンを出し抜きもする。まるで当たり前のように動じていないのが最高にかっこいい。
 もちろん、酒場(飯屋)で見せてくれる鮮やかな格闘は最愛のシーンである。派手な大立ち回りではなく、短い時間で手際よくさっと片付けてしまうところにシビれる。
 この夏の「天使の策略」でもとっつぁんの射撃の腕や手錠術は拝めて嬉しかったが、あれはステレオタイプなドンパチ過ぎて、嘘っぽい。すごみがない。「DOA」の、マスタード(ケチャップだったっけ?)を握った手をとられて、その腕がびくともしない、というシーンから始まる格闘には完全に負ける。
 銭形がかっこいいと、私はとにかく嬉しいのである。

 そして、ルパンのことを誰よりも信じているのも、ともすると銭形なのかもしれないとさえ思ってる。
 そんな思いで書いたのがこの話の一つ上にある「The day」なのだ。
 ルパンの死を受け入れてしまう二人と、なかなか受け入れられない二人。とうとう次元も待ちきれなくなっても、銭形は待つ。最後までルパンの生還を信じ、死を認めたくないのが、とっつぁんかもしれない。
 次元たちは「仲間」だが大人の男の付き合いだから、どこか距離があってドライでクール、その中に熱さがある感じだが、とっつぁんは敵だから、次元たちよりはるかに、ルパンに対して真剣で必死になっているだろう。
 次元たちは、「仲間」になったことでギラギラした対抗心をひそめてしまった。今更真っ向から己の存在意義みたいなものをかけて争えば、二度と元に戻れるかどうかも分からないだろう。
 とっつぁんは、敵だからこそ、誰よりもルパンに近いのかもしれない。

 そんなわけで、どうしても書きたかった銭形。そして、ルパンとの奇妙な友情や信頼関係。
 ピンチになって協力する、というのはありきたり。そんな二人もいずれ私の手で書きたいが、まずは、別の形で二人の信頼を書きたかった。

 そしてまた私は、ルパンという物語の魅力は「作者vs読者」にある思っている。これはそもそも原作者たるもんきー先生の意図なのだ。
 作者がルパンを操る。誰に変装しているか、どういう手段で難関を突破するか。そして読者を「ああ、こんな手できたか!」と驚かせられればそれがなによりの醍醐味。
 それを面白いと思う私は、少しでもそれに近いものを書きたいとも思う。
 この巣にあるルパンものの一作目「神様のくれたロマン」は、次元と思ったらやっぱりルパンだった、というところにそれを込めた。引っ掛けられたと思わせておいて、更に引っ掛けけがあった、という。
 「腐れ縁」ではトリックは他愛ないが、ルパンが決闘前に言う台詞で、実は一種の宣言をしていた、というところに込めてある。
 今回は、出てこないと思わせ、やっと出てきたと思わせておいて、実はとっくに出ていましたというところにもってきた。
 もちろん、どちらも途中で読めてしまったり、さして「そうきたか」と思わせられはしなかったかもしれないが。

 ともあれ、少しでも楽しんでもらえたら嬉しく思います。