それからのことを、よく思い出して、メモしておこう。 いろいろあって、驚きもし、混乱もしているが、私の人生にそう何度もない大きな出来事だった。
元素の間に向かったのは、私とカルジョ、そしてトルフディル先生だった。 中には氷の精霊みたいなものの応戦で忙しい教官もいたが、明らかに尻込みしている人もいた。その中で、ためらわず危険に飛び込めるトルフディル先生というのは、穏やかで物分りのいい人というだけでなく、同じだけ豪胆で勇気のある人なのだ。 まず真っ先にすべきは、マグナスの杖を使って目の力を封じることだった。目の力さえなくせば、アンカノも一人の魔術師、アルトマーにすぎないはずだった。 しかしアンカノは既に目の力を吸収していたらしく、杖で弱らせたとしても強力だった。 彼はトルフディル先生とカルジョを麻痺させた後、なぶり殺しにしようとした。これほど強力な麻痺は、普通起こらない。これも目の力のせいなのだろう。 私は、魔法戦は不利だと思った。幸い、ラビリンシアンで手に入れ、面白いからコレクションしようと考えていた霊体の剣を持っていたのをいいことに、これで立ち向かうことにした。 魔術師は、肉弾戦になると弱いものだ。それに、アンカノは防御のための魔法を重視するだろうか? 彼のように傲慢で、人を圧することを好むタイプは、身を守るよりも人を従わせる力を好む。彼には、私の父のような本物の冷徹さ、徹底して実利主義な面はない気がした。 だから、スキン系の魔法は覚えていないように思ったのだ。だとすれば、サルモールの衣類などただの布でしかない。 その読みは正しかった。 人を殺す手応えというものは、相手が悪党だろうが、じかに味わうと本当に気味が悪い。もちろん、魔法で遠くから焼き殺すならいいのかと言われそうだが、私の正直な実感として、直接
武器で手を下すことに比べれば、なにか他愛なく感じてしまうのだ。だからこそ私は、破壊魔法をやたらと使うことが恐ろしい。 なんにせよ、先生と友人を助けるためには、そうするしかなかった。そしてともすると、大学を崩壊から守るためにも。
しかしアンカノを倒したところで目は妙な唸りを上げたままで、先生も、このままでは危険だがどうしたらいいのか分からないと狼狽しておられた。 そのとき、今度は先生にも見える形で、クアラニルを含めた三人のサイジック僧がどこからともなく現れ、そして、よくやったと言い、目とともにどこかへ消えた。この目はまだ、この世界で扱いきれるようなものではないと彼等は言った。私もそう思う。 そして私は―――クアラニルは私を、「導き手」と呼んだ。大学の。
まさか! 私はまだまだ学問の途中で、魔法とて見習い程度でしかない。 それなのに、トルフディル先生もそれがいいとおっしゃる。 他の皆も、反対はしなかった。 もちろんジェイ・ザルゴは羨んだが、前向きな彼はがんばれば自分にだって同じことができるはずだと、ますます意欲を燃やしていた。 しかし私は、辞退した。
私にとって魅力的なのは、アークメイジのあの居室だ。不思議な光、小さいが素晴らしい庭、設備。ドア一枚ですぐに行ける図書館。あそこで過ごせることには、とてつもない魅力を感じた。サボス殿が片付ける間もなく遺していった様々なものを受け継ぎ、彼の、あれからの苦悩や決意に思いを馳せるのもいい。 だが、それだけだ。 たったそれだけの理由で、大学の責任者になるわけにはいかない。 もちろん、引き受ければいいのだろう。様々な責任も。 しかし私はこのスカイリムに根を下ろすつもりはないし、いずれは否応なく父のもとに帰らねばならない。 私は父の名を出し、束の間の学生でしかあれないのだと伝えた。 魔法にしか興味のない教官や学生たちにその名前はまるで通じなかったが(マスター・ミラベルが生きていればきっとご存知だったに違いない。彼女は大学の実務の窓だったのだから)、世故に長けたエンシルが、父の名、その名の者の立場を知っていた。彼はひどく驚いたが、それでは帰らざるをえないなと納得してくれた。そして嬉しいことに、だとしても君はここでは私たちの大切な友人であり、偉大な功労者だと言ってくれた。
私はこれまでの冒険で、頼りになるカジートの友人に、気の置けない学友たち、個性的な教官たちという素晴らしい出会いを得た。 正直なところ、それだけでも手一杯で、抱えきれない喜びなのだ。 残念ながら失われてしまった命もあった。サボス殿やマスター・ミラベルが生きておられれば、様々なことを学べただろう。 アークメイジという存在には、もっと相応しい者がいる。 そしていずれはその誰かに出会えるに違いない。 そのときが今から楽しみだ。
それにしても―――今となっては叶わないことだが、どうしてもサボス殿に聞きたい。居室にある錬金素材の庭に、何故キャベツ?
(おしまい)
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