とある魔術師(?)の物語

 

【1】

 ホワイトランから徒歩でウィンターホールドを目指す街道で、シセロという名の小男に出会う。彼はいまどき珍しい道化の格好で、大きな木箱を積んだ荷馬車の傍らにいた。ぶつぶつと、そして突然声高にひとりごとを言い、誰もいないのに大げさな身振り手振りで自らの苦難を叫ぶ。
 ずいぶん風変わりな男だが、母親の遺体をどこかの地下墓所に葬ってもらうため、運んでいる途中らしい。その荷馬車の車輪が壊れてしまって立ち往生していた。
 それはさぞ困っていることだろう。そう思い、話しかけてみることにした。

 ロレイウス農園がすぐ傍にあり、そこの亭主に助けてくれと頼んだらしいが、断られてしまったと言う。たしかにこのシセロという道化は、ともすると頭が少しおかしいのかもしれないが、だからと言って荷馬車、すなわち彼の母親の遺体をこのままにしておけば、いくら寒い土地とは言えど、どうなるかは明白ではないか。それで誰が得するでもないなら、車輪を直すくらいのことはしてやったほうがいいのではないだろうか。
 早朝のことではあったが、ロレイウスは快く訪問に応じてくれた。しかしシセロのことを話すと、彼の風体、態度はどうにも怪しく、運んでいるのがスクゥーマや違法な品でない保証はない、だから関わりたくはないと、とたんに不機嫌になった。
 たしかにそれも一理ある。だが、彼が事実としてなにか後ろ暗い人物だとして、その厄介な荷馬車を、いつまでも自分の農園の前に置いておくことが利口だろうか。そしてもし彼が本当に、ただ母親を埋葬する道の途中で難儀していたとしたら、それを無慈悲に見捨てるのは人として良き行いなのだろうか。
 そう言うと、心のどこかで「もし本当なら可哀想だ」と思っていたらしいロレイウスは、シセロを助けることを決めてくれた。

 


 

 ウィンターホールドまで後少しというところで、断崖の上に微かに石碑が見えた。辿り着いて見るとそれは塔の石碑で、解錠の技術を得られるものだ。とりあえず鍵はそれなりのものであれば自力で開けられるので(どこでそれを習得したかは聞かないでほしい)、このまま魔術師の石碑の恩恵を受けておくことにした。
 それにしても、こんなところに鳥の巣とは。足を踏み外せば一巻の終わりだが、中腰でなんとか手をのばしてみると、パイン・スラッシュの卵だった。錬金術の素材になるので、ありがたくいただくことにした。
 海辺にはノルド・フジツボの群生も見られるし、大きな貝も見つかる。貝の肉はなかなか美味そうだ。スローターフィッシュの卵も水際に産み付けられていたりする。トゲのある草はグラス・ポッドで、これはスノーベリーよりも更に北のほうでしか見かけない。

 景色こそ寒々しいかもしれないが、私にはどこもかしこも、宝の山だ。夢中になって海辺をあさっていたら、ずいぶんと大きなタロス像を見つけた。たしかタロスは、元はノルドの偉人だったはずだ。ノルドたちの住むこのスカイリムで強く信仰されているのは当然だろう。一人の人間が、神格化されるほどの偉業を成すというのは信じがたい。信じがたいと言ってもそれは嘘だという意味ではなく、あまりに壮大すぎて私の想像の範疇を超えているということだ。少し前に小さな祠なら見つけて祈りを捧げてきたが、せっかくなので立ち寄っていくとしよう。流氷の上を渡るのは初めての体験で、どきどきする。

 ホーカーという大きな鰭脚類を見つけた。近づくと威嚇の唸り声を上げるが、襲っては来ないようなので、そっと通り過ぎることにする。そういば、ホーカーの牙や肉は売り物になっていたように思うが、他に資金を得る手段はあるのだし、襲って来ないかぎりにはそっとしておこう。……と思っていたのに、ウィンターホールドへ行く道はどこかと思って上ばかり見ていたら、気付かずぶつかり、怒らせてしまったようだ。火炎魔法で撃退し、ありがたく牙と肉といただいておくことにした。
 ……貝の肉と、ホーカーの肉を塩とハーブでスープ仕立てにすると、これはずいぶん美味そうではないか? 後で試してみよう。

 大学の建物は見えるのだが、断崖の上にあり、登る道がなかなか見つからない。なんとかなるだろうと海辺を歩いてみる。グラスポッドもだいぶ溜まった。どんな効果があるのか、早く実験してみたい。大学には、見学者でも使える錬金台があるだろうか。

 まずい。オオカミと戦っている内にうっかり胸まで水に浸かってしまった。これが非常にまずい事態だということくらいは、子供にも分かる。どんどん体温が奪われていく。早いところウィンターホールドの町を見つけなければ。

 登り口らしきところがあったが、気がつけば逆方向へ進んでいたようだ。手がかじかむ。
 もしこれきりとなったら、私はなにを書いておけばいいのだろうか? 私がしてきたことは、ここに書いてあるが……。
 こんなことをしている暇があったら、歩いていたほうがマシか。とにかく、せめて風をしのげるところを探そう。火炎魔法ではあたたかくならないのは、新発見だ。

 


 

 ありがたいことに、私はまだ生きている。
 凍死しかけていたのを、ウィンターホールドを訪れていた旅人が助けてくれたという。その人は私を宿屋に届けて、そのまま出ていってしまったそうだ。だがしばらくここに滞在し、大学の厄介事を片付けていたとかで、名前や素性を聞くことはできた。どこかで会うことがあったら、必ずお礼をしなければ。
 ところで、ここの宿屋では、ビルナという下働きの女性から面白い話を聞いた。彼女は商売で失敗した取引の1つとして、サンゴでできた爪の装飾品を持っていた。ユンゴル墓地の部屋に返せば、同じ重さ以上のゴールドより価値のあるものが手に入るという。ゴールドはともかく、なにやら面白そうだ。だがユンゴル墓地というのは、どこにあるのだろうか。
 急ぐことでもないので、まずは大学を覗いてくるとしよう。

※ コーラルドラゴンの爪は、ユンゴル墓地に。どこだ?
※ 恩人:黒い鎧の大柄な女性。名前はマハド。鎧兜のせいで種族や顔は分からない。陽気で気さくな人柄らしい。……一度も脱がなかったのだろうか?

 


 

 大学は町の奥にあった。町で話を聞いたかぎりでは、あまり折り合いがよくないようだ。大破壊と呼ばれる崩落で町の半分以上が海に沈んだのに大学だけは無事だったために、大学がなにかしたのではないかと思われているらしい。魔術師の肩身が狭いのはここも同じか。
 それにしても、町の大部分が沈んだということは、大破壊前にはこの町はもっと広く大きかったということだ。いったいどんな町だったのだろうか。

 大学に通じる橋の前には、ファラルダという女性がいた。入学試験代わりに、ファイアボルトを見せてもらいたいと言うが、私は覚えていなかった。彼女から魔法を買えば、見習い程度の魔法なら、なんとか使いこなすことができる。
 シロディールの大学で、教室の中で弄んでいた魔法程度、やはり素人同然、学問の範疇で出ていないものだったのだとよく分かった。
 大学の入学には特に資格も必要ないらしい。在籍したからといって、定期的に通うとか、大学内に縛られるということもないようだ。せっかくなので、入学させてもらうことにした。
 最初に会うようにと言われたミラベルというマスターウィザードは、あいにく話し中だった。待つ間、たまたまそこにいた壮年のダンマーに話しかけてみた。まさか彼がアークメイジだとは思いもせずに。温和で紳士的な人物のようで、ほっとすると共に、この大学に在籍してみたいという気持ちも強くなった。魔法技能の向上と、その知識の共有に努めさえすれば、普段はなにをしていてもいいというのはありがたい。ここを拠点に、しばらく魔法の腕でも磨いてみるとしよう。
 マスター・ミラベルに宿舎を教えてもらった後、さっそく、トルフディルという指導教官を紹介してもらった。他の新入生たちとともに、彼の授業を受けた。彼は変性呪文の教官で、分かりやすい破壊呪文以前に、身を守るための魔法を、確実に安全に使いこなすことの重要性を説いていた。「魔法を支配する」と彼は言う。私も同感だ。良い先生に巡り会えたことに感謝したい。
 それにしても、サルモールの使者がアークメイジの顧問とは、奇妙に感じる。顧問というよりも介入、あるいは調査なのではないだろうか。同じアルトマーながら、彼等の思想や流儀にはついていけない。

※ 変性術の教官:トルフディル先生
※ 同級生:ジェイ・ザルゴ(カジートの男性)、ブレリナ・マリオン(ダンマーの女性)、オンマンド(ノルドの男性。姓を言わないのは、家族と折り合いが悪いせいだろうか?)

 

【2】

 さっそくサールザルの遺跡へ行くという。古代の魔法、その応用に触れてみようということらしい。素晴らしい機会だ。トルフディル先生はこのまま向かうようなので、私は先生についていくことにした。
 道々、シールドスペルや、変性の魔法についてたくさんの話を聞けた。すべてを一度に理解することはできないが、この後何年もかけて、先生と同じ領域にまで理解を深めていければ幸いだ。

 道中、殺された帝国兵士の死体を見つけた。近隣を歩いていたストームクローク兵によるものだろう。思想の違いは分からないでもないが、命を奪い合うほどのことだろうか。

※ 帰ったらトルフディル先生から聞いた話のメモを作ること!

 


 

 遺跡の中で見たものは、いずれ時が来るまでは、秘密にしておくほうが良いような気がする。
 だがこの驚きを記さずにもいられない。

 アーニエル氏(教官ではないらしいが?)に魔法の遺物を探すよう言われて、なにげなく手にとった古風なアミュレットが鍵だったのだろう。罠に囚われたのかと思ったが、それによってサールザルの奥地に通じる道が開いた。
 トルフディル先生とともにドラウグルを退けつつ進んだ先にあったのは、なにか、膨大な魔力を感じさせる不思議な球体だった。
 道中、私に接触してきたサイジック会の男がいたが、彼の姿も声も、トルフディル先生にはまるで見えず聞こえなかったらしい。サイジック会とは、またずいぶんと古い名前だ。なにかで読んだ覚えがあるがよく覚えていない。たしか魔術師たちの結社のようなものだったと記憶している。
 それにしても、まさかこんな発見があるとは思いもしなかった。

 早くアークメイジに報告に行こう。サイジック会のことは黙っていたほうが良いのだろうか? あの男がトルフディル先生にはあえて姿を見せなかったとしたら、誰彼構わずに言っていいことではないような気もする。だがアークメイジであれば知識もあるだろうし、賢明な判断をしてくれると思いたい。それとなく尋ねてみてもいいかもしれない。

※ サールザールの裏口に、おかしな壁画を見つけた。ブリークフォール墓地にあったものと同じもののようだ。近づくと、少し頭が痛くなる。これはなんなのだろうか。
※ 帰ったらエンシルを探す。戦利品を買い取ってもらわねば。大学か町の宿屋か、居場所が決まっていればもっと楽なのだが。

 


 

 アークメイジに報告すると、アルケイナエウム(大学の図書館)にいるウラッグを訪ねるように言われた。元素の間ではファラルダ先生が、アンカノ殿が私を探していたと教えてくれた。アークメイジの顧問が私を探す理由など見当もつかないが……。
 司書がオークとは思わなかった。(オークには大変失礼で申し訳ないのだが)
 アンカノ殿は図書館に行く私を見かけて追ってきたらしい。彼から、サールザルで見つけたものについて尋ねられた。当たり障りのないように報告はしたが……。

 我々アルトマーを、その種族だけで嫌う人は、たいがい、アンカノ殿のような高慢さを最も嫌っている。私は、自分がアルトマーだから他の種族より優れているとは到底思えない。優れた人物は、種族や性別、年齢を問わずに優れているし、その優れ方というのも一通りではない。なにをどう考えれば、特定の種族が特別に良いなどという結論になるのだろうか。

 


 

 図書館に入り浸ってしまった。ウラッグはたしかに気難しいが、本を丁重に扱うかぎりにはなにも言わない。

 サールザルで見つけた「ゴールドールのアミュレット」。そもそもはこれがなんなのか気になって調べていたのだ。もちろんというか、私の悪い癖で他の本まで読みふけってしまったが。とにかく、これはどうやら、大昔の優れたアークメイジにまつわるもののようだ。
 あの謎の遺物のことも調べたいが、失われた伝説も気になる。

 アンカノ殿の視線がどうにも気になる今は、すぐに本筋に行かないほうがいいかもしれない。サルモールの使者がたった一人で、こんなところでなにをしているのやら。胡散臭く感じてしまう。
 まずはゴールドールのアミュレットについて調べてみるのもいいだろうか。しかし、さすがに私一人では心もとない。誰か頼りになる傭兵でもいないだろうか。採取がてら近くの町に行き、誰か手伝ってくれる者がいないか探すか……。
 そういえば、カジートキャラバンの護衛が一人、失せ物を探してくれたら礼をすると言ってくれていた。借金まみれで金がないとすると、金品をくれるのではないだろう。だとすると、用心棒として力を貸してくれるのではないかと思う。実のところどうなのかは分からないが、先に彼の「月のアミュレット」を探すのもいいかもしれない。相手が盗賊の類ならば、私一人でもなんとかなるだろう。

 


 

 アミュレットについてメモした場所を探すのに少し手間取った。もう少し分かりやすく書いていくべきだろうか? しかし索引まで作っていたら、すぐに書き留めることが難しくなる。
 ともあれ、「月のアミュレット」を取り戻しに、フェルハメール砦へと向かった。ドーンスターから程近い砦だが、ご多聞に漏れず、ここも盗賊の根城と化していた。
 幸いなのはごく少数からなるグループだったことだ。外の見張りに立っていた者が3人。どうも地下の鉱山で採掘をしている者たちはいるようだが、わざわざ相手にする必要もない。砦の中にはリーダーが一人、ぶつぶつと云いながら座っていただけだ。
 最近、召喚魔法を両手で唱えられるようになったので、炎の精霊を召喚してみた。私が戦うまでもなく決着はついたが、まさか精霊が消滅時に爆発するとは思いもしなかった。危うく私まで焼け焦げるところだった。

 無事にアミュレットを取り戻すことができた。
 困ったのは、たしかカルジョという名だった彼が、キャラバンとともに移動しているためなかなか会えないことだ。
 どこかで出会えたら渡すとしよう。それまでなくしたり壊したりしないようにしなければ。故郷の思い出だという大切なアミュレットだ。

 


 

 ゴールドールの失われた伝説を求めて、フォルガンスールに程近い、モーサルの町にやってきた。
 ここは沼地に隣接した町で、住民や旅の者は陰気だと思っているようだが、私にはたまらなく魅力的だ。注意深く見ていると、桟橋のたもとやそこいらの地面に、貴重なキノコ類が生えている。これは乾いた土地、洞窟などではなかなか見られないものばかりで、つい地面ばかり見て歩いてしまった。
 これだから魔術師というのはわけがわからないんだ、と白い目で見られたが、どうやらそれは、ここにファリオンという魔術師がいるかららしい。ノルドは魔法を重んじない。ここの首長イドロッド殿も、ファリオン氏の便宜をはかるために、住民からは反感をかっているらしい。
 しかしファリオンと言えば、ウィンターホールド大学の教官の一人、召喚魔法の使い手であるフィニス先生の師という人ではなかったか? 私は会いたい気持ちを抑えきれず、つい押しかけてしまった。
 彼はフィニス先生の言うとおり偏屈だが、間違いなく博識で、私が望めば召喚魔法の訓練もしてくれるようだ。今は路銀が心もとないが、もう少し余裕ができたら教えを請うてみたい。
 それにしても、彼は様々な種類の呪文書を取り扱っている。召喚魔法が専門だとしても、それのみというわけではないようだ。小さな子供の面倒を見る優しい御仁のようだが、弟子はとっていないとのこと。私も、まずは大学である程度の知識と実践を積むのが先だろう。いつか彼のような先達と、魔術について対等に論じられるようになりたいものだ。

※ ファリオン殿から買った魔法:消音、治癒の手。一人旅はやはり心細い。同行してくれる者がいたら、その者のためになる魔法も覚えておかなければ。使いこなせるようになるのはまだまだ先だろうが、何事も、行わねば上達もしない。

 


 

 モーサルでは最近、ひどい火事があったらしい。母親と女の子が亡くなったそうだが、その夫、父親はと言えば、既に新しい恋人を見つけて共に住んでいるとか。傷ついた心に慰めを得ようとするのはわからないでもないが、それはいささか軽率であるし、軽薄でもなかろうか。もっとも、よそ者の私には、そのことについてなにか言う権利はないだろう。
 町の人の話を聞いてみるに、フロガーというその男が火をつけたという噂もあるらしい。首長から調べてほしいと頼まれた。
 こういったことは、最初の場所から調べるのが鉄則だ。宿のすぐ傍にある焼け落ちた家に行くと、なんということだろう、私はヘルギと名乗る女の子の幽霊を見つけた。
 幽霊とはずいぶん珍しいが、今までに見かけたことがないわけではない。遊んでくれたら火事のあった夜のことを教えてあげると言うので、夜になったらヘルギとかくれんぼをすることにした。彼女を見つけ出せばいいらしい。
 カジートではあるまいし、夜目のきかない私にはいささか恐ろしくもあるが、灯火の魔法でも使って探してみるとしよう。こんないたいけな子が無残に殺されたとあっては、放っておくのも可哀想だ。

 


 

 モーサルで数日を過ごす。宿は快適で、居心地がいい。それに、魔術師を胡散臭く思ってるとは言っても、特別冷たいわけではない。素っ気なくはあるが、むしろ皆親切に感じる。

 ヘルギとのかくれんぼはうまくいった。
 聞くかぎり、今フロガーと暮らしているアルバという女性が吸血鬼のようだ。しかし証拠もなしにそんな大それた糾弾をできるものではない。
 イドグロッド殿からも証拠がほしいと言われた。もちろん、本人に聞いてもしらばくれるだけだろう。
 家に忍び込んで探すしかないのだろうか? 人様の家に忍び込むほどの真似をするべきか否かは、悩ましいところだ。だがもし彼女が吸血鬼であるならば、その証拠を押さえる必要があるのも理解できる。
 ともかく、今は少し様子を見ることにする。

※ アルバの家には鍵がかかっている。夜中に一度、入りはしないつもりで少しいじってみたが、民家につけるには異常なほど複雑な鍵だ。私では到底手に負えない。ほんの少しいじるだけで、ピックが折れてしまう。これほどの鍵をつけるのは、やはり怪しく感じる。

 


 

 アルバの一件は、モーサルを訪れた旅人に託した。
 黒い鱗のアルゴニアンで、宿の食堂で食事をしていたら話しかけられたのだ。彼もこの件に興味を持ったらしい。それで、先に調べている私に、なにか分かったことはあるのかと尋ねてきたのだろう。
 私がこれまでのいきさつを話し、アルバの家に忍び込むのは心理的にも気後れがするし、鍵も開けられそうにないと話すと、そういうのは少し得意だから良かったら任せてくれと言ってきた。
 「少し」とは言ったが、たぶん彼は盗賊ギルドの者ではないだろうか。だが悪人ではないようだし、彼に後を任せることにした。

 これで無事に、モーサルの人たちの不安と懸念が解決されるといいのだが。
 イドグロッド殿には途中で人に任せる無作法を詫び、そろそろフォルガンスールへの冒険に戻ろう。

※ アルゴニアンの名前を聞きそびれてしまった。もしまた会うことがあったら、事の顛末とともに聞いておきたい。

 


 

 フォルガンスールへ向かう前に、なんとも幸いなことに、街道でカジートのキャラバンを見つけた。カルジョのいるキャラバンだ。急いで追いかけてアミュレットを届けると、心から喜んでくれた。
 故郷を離れて暮らしているのにはなにかわけがあるのだろう。それがどんなわけであれ、それでも生まれ育った場所、そのとき関わってきた人たちというのは、特に愛着深いものに違いない。アルトマーらしいアルトマーをどうにも好きになれない私でさえ、時には懐かしくなる。あの父のことでさえ、今頃どうしているだろうかと思うときがあるくらいだ。よほどに嫌な思い出でもないかぎり、故郷とはやはり特別に愛おしいものらしい。
 ともかく、アミュレットのお礼にその腕を貸してくれるという。キャラバンのリーダーも、この寒い土地での恩義を忘れるべきではないと言い、それに反対はしなかったので、さっそく共に来てもらうことにした。

 フォルガンスールはモーサルの北にある。ここに、ゴールドールの伝説にちなんだものがある。という話だ。
 しかし、沼地を渡っているとつい、水辺の生き物や菌類などに目がいってしまう。人は近づかないらしい。こんなにも面白いものが溢れているというのに! モルフォチョウも飛んでいる。青い羽根が目立つので遠くからでも分かる。青い花と調合すれば、素晴らしい薬ができる。もっとも、私にとっては「高値で売れる」という意味で素晴らしいのだが。
 デスベルの花もたくさんとれるし、薄暗いせいか、昼なのにホタルも飛んでいる。デスベルは塩と調合するだけで減速の薬になって、これも手軽なわりにはそこそこの値で売れる。
 つい採取に夢中になって、肝心の墓を通り過ぎてしまった。カルジョが注意してくれなければ、はたしてどこまで進んでいたことか。だがそのおかげで見習いの大立石を見つけることができた。

 フォルガンスールを発見しても、またその入口前で採取に夢中になってしまい、カルジョに呆れられた。私もこの欠点は自覚しているのだが、なかなか直らない。
 フォルガンスールの地下墓地に入るなり、血なまぐさい匂いがした。ドラウグルと、冒険者の死体が転がっていた。ドラゴンクローの鍵で開ける扉も開いていた。先客はドラウグルに殺されたらしい。
 奥に進んでいくと、ダイナス・ヴァレンというダンマーの遺体とともに、彼のメモを見つけた。どうやらゴールドールの伝説について調べていた男のようだ。
 彼の手記をもとに、更なる調査を進めることができそうだ。
 だが、そう簡単に奥まで進めそうにはないし、戦利品も溜まってしまったので、一度引き返すことにした。モーサルには武器を買い取ってくれる者が見当たらなかったのだが……。カジートキャラバンに少し買い取りをしてもらえば良かったと思ったが、もう遅い。
 ここからならば、帝国軍の駐留するソリチュードが近いはずだ。まだ訪れたことはないし、せっかくなので、この機に足を伸ばしてみるとしよう。
 カルジョには「物好きだな」と言われたが、それも満更ではない様子でほっとした。

 


 

 なんとか日暮れ前にソリチュードに辿り着いた。
 しかし、運悪く、としか言いようがない。ロッグヴィルという男の処刑が、今まさに始められるところだった。
 彼は上級王(スカイリムの首長たちをまとめる存在だ)を殺したウルフリック・ストームクロークを、町から逃した門番だという。
 血なまぐさい内乱には、あまり関わりたくない。ましてや私はスカイリムに定住するつもりもないのだから。

 宿屋「ウィンキングスキーヴァー」に泊まっている。なかなかいい宿だ。美しいノルドの女性が歌声を披露してくれている。ソリチュードは帝国軍の駐留地であるからか、帝国を讃えストームクロークを呪う歌も歌われる。吟遊詩人の歌には血なまぐさいものも多いが、大昔の伝説であればともかく、それが今まさに進行している出来事である場合、その剣呑さは増す。
 本当に皆思うのだろうか。死こそが解決だと。

 


 

 フォルガンスール、二日目。
 ドラウグルを退け、罠を乗り越えていった先に、ゴールドールの不肖の息子の一人、ミクルルが眠っていた。と言ってもドラウグルと化した彼は、目覚めるなり容赦なく襲ってきた。
 私とカルジョはかろうじて彼と彼の従者を退け、サールザールで見つけたものとよく似た、アミュレットを1つ手に入れた。
 裏口には、また謎の文字が書かれた壁があった。

 ゆっくりメモを書いている暇はなかった。今こうして書いていても、緊張のあまり中のことをほとんど覚えていない。たしかなのは、カルジョに共に来てもらって本当に正解だということだ。私一人ではとても進めなかったし、ミクルルの相手もできなかった。
 回復してあげると「ありがとう」と言うが、私はその百倍もありがとうと言わねばならない。

 


 

 次は「ゲイルムンドの間」と呼ばれる場所だ。ここにもゴールドールの息子の一人が葬られているという。
 千里眼の魔法は便利だ。どんな場所へでも導いてくれる。それに、キャラバンとともにスカイリムを巡っていたカルジョが道を知っていた。
 彼のすすめで、近くにあるイヴァルステッドという村で一泊することにした。
 小さな村だが、村民は皆素朴で親切だ。旅をしていると、種族に対する偏見に出会うことも少なくない。特にスカイリムでは、タロス信仰を巡って我々アルトマーが組織したサルモール(及び帝国)と対立しているため、ひどく剣呑に扱われることもある。しかしイヴァルステッドには、内乱も種族に対する嫌悪も押し寄せていないらしい。
 少し話を聞けないかと思ったが、宿の主は近くにある墓地のことが心配でならないようで、それ以外の話は特に聞けなかった。
 村の人たちに聞いても、この近くにある遺跡や変わった場所と言えば、ハイフロスガーくらいだと言う。その山の上に、グレイビヤードという隠者たちの修道院があるらしいが、見上げるだけて気が遠くなりそうだ。こんなところ、どうやって登るのだろう。七千階段、と呼ばれる巡礼の道があるそうだが……七千段……。
 なにがあるのか登ってみたいが、それはまた今度にしよう。カルジョを突き合わせるのも申し訳ない。

 


 

 翌早朝、ゲイルムンドの間へ向かった。
 入り口は湖の真ん中にあった。建造物を想像していたが、少なくとも入り口はただの洞窟だ。そこかしこにキノコが生えている。入り口には出血の冠キノコ、中に入ればベニテングダケに白かさキノコもある。なんて素晴らしい場所だろうと思って夢中で採取していたら、穴に落ちた。水が溜まっていて何事もなかったし、カルジョは上から、他に進む道がないからここから進むしかないと飛び降りてきたが。とりあえず、目的を忘れないようにしなければ。

 ドラウグルと、キノコ。……ドラウグルさえいなければ、定期的に訪れたい場所だ。
 ジグディス・ゴールドールソンは、まあ、大したことはなかった。分身を作り出すのだが、カルジョが弓で、私がファイアボールで攻撃していれば、分身は一度で消えるし、本体も、三度ほど攻撃するだけで終わってしまった。この程度で良かったのだろうか。
 呆気無くて驚いていると、カルジョが「強くなってるぞ」と嬉しそうに言ってくれた。弱くなるよりはいいが、私は別に、冒険者や傭兵になりたいわけではない。
 しかし、こうして共に来てくれる人をちゃんと守れる程度には、様々な魔法に習熟したいものだ。
 カルジョは本当にいい人で、私がうろうろと寄り道していても呆れて笑うだけ、文句を言ったり舌打ちをしたりはしない。荷物が重ければ持つと快く引き受けてもくれるし、頼りになる。彼に万一のことがあったりしては嫌だ。

 ともあれ、サールザールで見つけたものと合わせ、ゴールドールのアミュレットは3つ揃った。いよいよ復元に向かおう。

※ 奥地にあった大きな宝箱の傍に、めったに見つからないパール見つけた。錬金術の素材としては非常に貴重な品だ。他にはどこで見つかるのだろう。やはり水辺だろうか。貝を探す? 肉の取れる貝なら見つけたが。

 


 

 アミュレットを復元できる場所については、なかなかどこという特定ができなかった。
 だが、大学で教官たちに尋ねたり、本を調べたりした結果、リーチウォーターロックという場所について知ることができた。
 スカイリムの西の端、マルカルスにほど近い場所らしい。
 長い旅になるだろう。しっかりと準備を整えねば。

 


 

 カジートキャラバンが行くのは街道だから、そこから大きくはずれた場所についてはカルジョにもよく分からない。千里眼の魔法もたまにおかしな方向を示すことがあり、ずいぶん行ったり来たりした。
 マルカルスに宿を取って数日。なんとかリーチウォーターロックに辿り着いた。
 ここもキノコだらけだ。ブリスターワートに木椅子キノコ。白かさにベニテングもある。出血、モラ・タピネラまで。
 構造はシンプルで、洞窟を抜けると遺跡に入り、ただまっすぐに進むだけだった。仕掛け扉はあるが、ドラゴンの爪で開けるこのやり方はもう分かっている。
 奥地には台座があった。アミュレットを3つ台座に備えると、ゴールドールの三兄弟の亡霊が現れて、まるで力試しでもするか、それともからかうように、一人ずつ攻撃してきた。
 おそらく、からかっていたのだろう。三人を倒すと、今度は一斉にかかってこようとした。しかしそのとき、最も奥にあった棺からすさまじい魔力が広がった。それは優れた指導者であったというゴールドールの父のようだった。彼はあっという間に三兄弟を蹴散らすと、3つに分かれていたアミュレットを一つにし、そして、消えた。
 どうやらこのアミュレットは、私への贈り物のようだ。素晴らしい品だ。大切に使わせてもらおう。帰りには、すぐ目の前に隠し扉が開いていた。大きな宝箱もある。どうやらこれもいただいて構わないらしい。カルジョと戦利品を山分けする。少し楽しい。
 キノコもとれるし、素晴らしいアミュレットももらえた。苦労して探した甲斐があった。

 ところで、来るまでと帰りの道で、二度も闇の一党の暗殺者に襲われた。アストリッド、という名の者からの司令らしい。誰かが私を殺したいほど憎んでいるということが重い。私は誰に何をしたのだろうか? 悪事といったものは働いていないはずなのだが。
 カルジョに言うと、逆恨みというものもあるから気にするな、おまえはいい奴だと励ましてくれた。胸に沁みる。

※ ジュニパーの木。マルカルスの近くで見つかる。他では見かけない。
※ ジュニパーベリー。どうやら炎耐性が下がるものの、治癒効果があるようだ。他の効能は?