ところで、今までお伽噺でしかないはずだったナイチンゲールとノクターナルについては、ギルドの奴なら誰もが知るところになった。 こっちから明かすつもりはなかったんだが、あれだけ事が大きくなると隠し通すには無理があったんだ。 秘密は不信感につながるし、馬鹿な好奇心も煽る。メルセルをどうやって追い詰めたか聞きたがる奴は多くて、それにいつまでも、疲れてるからとか、メルセルにもいくらかの守るべき名誉はあるだとか、言い逃れを続けるのは難しかった。 それならいっそ、いくらかの真実は話したほうがいい。それはすぐに合意した。俺とブリニョルフと、カーリアの間でのことだ。だが、どれだけのことを話すかでは、ブリニョルフとカーリアの意見が分かれた。 カーリアはなにもかもを話すべきだと言った。メルセルの力の大半が偽り、いや、才能はあったかもしれないが、真っ当な方法で引き出したものじゃないことを明かせば、騙されていた奴等の罪悪感や自責も減る。もちろん、メルセルに向けられる尊敬は跡形もなくなるだろう。俺たちとしても、なになら話していいか考えなくてもいいし、嘘の打ち合わせをしなくてもいい。 だがブリニョルフは、「不壊のピック」と、ノクターナルから与えられる恩恵のことは伏せるべきだと主張した。ピックのことを知れば、手に入れようとする馬鹿が出かねない。なにより、マスターやナイチンゲールの能力を、ピックやノクターナルのためにされるのはまずい、と。実際にあるよな。反感を持ったときに、「あいつはそういう特別な恩恵のせいで優れているんだ」ってことにして、相手を認めようとしない、なんてことがさ。 組織をまとめるため、マスターは尊敬されなければならないし、たとえ好かれないにしても力だけは認められないといけない。ブリニョルフがかなり強硬にそう主張して、カーリアが折れる形だった。 それで結局、メルセルは優れた盗賊だったってことになった。だからこそナイチンゲールになったし、マスターにもなり、様々なことができたと。カーリアにしてみれば、そんな形でメルセルの"力"に対する尊敬が残るのは嫌な気分だったが、これからのギルドのことを考えて、彼女は黙っていることに同意した。
そんなわけで、ギルドの中で知られている話はだいたいこんな感じのはずだ。 ノクターナルは本当に存在し、その力が俺たちに幸運として与えられていた。だが、当時ナイチンゲールの一人だったメルセルが彼女の聖域を侵したため"契約"は破棄され、幸運が得られなくなった。ガルスはそれに気付いてメルセルを問い詰め、そして殺された。 濡れ衣を着せられたカーリアは、25年して復讐に戻った。たまたま出会った俺がそれに手を貸し、メルセルを追い詰めた。逃亡したメルセルを追うにあたって、俺たちはノクターナルに仮の謁見を求め、裏切り者を討伐することができれば"再契約"してやろうという約束を取り付けた。 そして、それを達成してギルドには運が戻り、俺とブリニョルフはノクターナルから正式にナイチンゲールとして認められた、と。 とはいえ、そんな話を誰もが頭から信じたわけじゃない。それはそれでいい。何十年、あるいは何百年かすればまた、こんな話は若造をビビらせるためのお伽噺になるんだろう。 ただ、デルビンはそれを聞いて、ノクターナルの像を注文した。ノクターナルが本当に俺たちに幸運を授けてくれるなら、たとえ彼女が信仰を求めていないとしても、自分にとって感謝や尊敬を捧げる場が必要だからだとか言って。 石像はそのへんの、と言っても顔の広いデルビンが見つけてきたんだから相当腕のいい職人なんだろうが、そいつが作ったなんてこともないものだ。だが不思議と、祈りを捧げればいくらかの加護が得られるような気がするとか言う奴もいた。
俺は正直、慣れない環境に置かれて息苦しい思いもしたよ。 カーリアやブリニョルフならともかく、一年かそこら前に流れてきた若造がナイチンゲールだぜ? そのうえブリニョルフは、次のマスターについて誰にするか考えていること、それが俺だってことまで皆に話しちまったんだ。 すごいじゃないか、なんて単純に応援してくれる奴もいたよ。だが嫉妬や反感もすごかった。俺より前からいて、それでいて幹部ってわけじゃなかった連中にとっては、なんでこいつなんだって気持ちも当然あっただろう。アルゴニアンってのも、こういうときになると嫌う言い訳になる。ギルドのメンバーも、ほとんどが人間種族だったしな。それに、当たり前のことだが
みんながみんな
いい奴なわけじゃない。中には、手柄を立てて張り合うんじゃなく、俺の足を引っ張ろうとする奴もいた。 こういう相手に、当たり障りなくうまくやるのは無理だ。当たり障りなく、ってのは、俺が相手にとってなんでもなければこそできるものでな。睨まれていたら通じない。正直、鬱陶しいし煩わしいし、もちろん不愉快だった。 それを嫌って、また腰掛け半分みたいな立場に戻ることも、できなくはなかったと思う。いっそ抜けることならもっと簡単だ。だが俺は、残ると決めた。 これまでにも何度か、残るか出て行くかの岐路はあった。後で選び直せるからって適当に残ることを選んだり、俺じゃなく他人の意志で片方が選びづらくなったりでここまで来た。けどこのときは、俺自身が、自分の意志で選んだ。面倒なことがあるとしても、しばらくじゃなく、できるだけずっと。ここにいるって腹をくくれよって、自分に言い聞かせてさ。 味方だってたくさんいたしな。カーリアなんてその最大手さ。借りがあるからってわけじゃなく、本当に親身になって俺を心配し、力になろうとしてくれるのがよく分かった。 それになにより、気に食わないとかなんとか、それだけで突っかかってくる外野の相手なんかより、ずっと重要なことがあった。ギルドにとって、そして、ギルドに残るって決めた俺自身にとってだ。
ホワイトランとウィンドヘルムでは、ギルドの名声は盛り返したと言っていい。だが他の大きな都市、ソリチュードとマルカルスじゃまだ今一つだった。ギルドに元のとおりの活気を取り戻し、スカイリム中に権威を示すには、それらの大都市を無視してはおけない。 だから俺はそれまでどおり、デルビンとヴェックスからこまごました仕事をもらって、あちこちの街に出かけた。トニリアから、カジートキャラバンの元締めに渡りをつけてくれ、なんて頼まれたりもしたっけ。 まあ、ナイチンゲールだろうがマスター候補だろうが、俺がしてることはみんなと同じだ。ギルドのためにすべきことを、立場だ肩書だなんて関係なく黙々と、いや、楽しんでやる。それが、外野を黙らせる一番の方法でもあった。「口じゃなくて、手と足を動かしな。あいつはおまえの3倍は稼いでるよ」とかさ、ヴェックスが言ってくれる。これには誰もなにも言えないよな。 そんなふうにして俺たちは、あちこちの街でちょっとした盗みを働き、混乱させ、衛兵を出し抜く一方で、地道な商人と同じように地盤を固め、ギルドの勢力を確かなものにしていった。 ノクターナルの幸運もそれを後押しした。以前はとくかにツイてなかった。幸運が届かないんじゃなくて、不運がもたらされているんじゃないかって思うほどの……そうじゃなきゃ、ギルドには特別運の悪い連中が集まってることになる。ともかく、それまではなにをやっても失敗しがちだったのが、ようやく普通に戻って、ラッキーなことも起こるようになったんだ。 だから、マルカルスとソリチュードでのことも、そう長く待つ必要はなかった。
マルカルスの特殊任務は面白かったな。 盗まれたものを取り返してほしいって依頼だった。盗賊のくせに、なんでこうも「盗まれたものを取り返せ」なんて依頼が来るんだか。 ともかく、依頼主はマルカルスに店を構える職人でな。特別に頼んだ品が、届けられる前に強奪されたという。もちろん、最初は街の役人に訴えた。だがマルカルスはストームクロークの起こした内乱だけじゃなく、その前のもう一つの内乱、フォースウォーンとの因縁まで抱えた街だ。それが再燃してるときに、庶民の泣き言なんか聞いてる暇はないらしくてな。 それで彼はギルドを頼ることにした。もともと親父の代には縁があったという。だがこの25年間、つまりその男の代になってからは、ギルドはすっかり落ちぶれて、父親のように連絡を取ろうとは思わなかったらしい。虫のいい話に聞こえるかもしれないが、有能な商売人としちゃ当たり前だ。価値のあるものを扱い、価値のないものには手を出さない。同情なんかで泥船に乗り込む奴より、よっぽど信頼のできる商売相手さ。 俺はパインウォッチって小屋に忍び込み、そこの地下にあった山賊のアジトを目指した。連中は仲間割れの一歩手前みたいだった。名前は忘れたが、たしか女だ。その女がリーダーなんだが、そいつの持ってる財宝なんかを、何人かの手下が盗もうとしてたんだ。それを警戒して、彼女は罠だなんだを財宝の部屋の前にかなり仕込んでいた。 アジトにしていた洞窟の広さ、そこにいた仲間の数からして、なかなか大規模な山賊団だったのは確かだ。そして、それに応じただけのものも貯めこんでいた。デカい櫃に、宝石から貴金属から稀少な鉱石に薬、いろんなお宝が山盛りで、ちょっと見ないほどだった。 もちろん、ただ目当てのものだけ失敬したわけじゃない。どうせ全部
誰かから奪ったものなんだ。根こそぎもらってやったよ。
ちなみにな? その財宝部屋の手前には酒場があった。他に道はなく、奥に行くには酒場を通るしかない。バーテン役でも務めてるのか、カウンターの中で食器を拭いたりしてるのが一人。テーブルに、たしか奥と手前で三人かな。四人だったかもしれないが、五人はいなかったはずだ。飲み食いしながらたむろしてる連中がいた。洞窟の中とは言え、テーブルにはそれぞれに明かりも用意されているし、部屋の真ん中あたりでは篝火も焚かれていて、中はそれなりに明るい。 俺は誰も殺さず、そこを通り抜けた。 明かりもあって、人もいた。見逃すはずなんかないのに、その奥にあった宝箱がいつの間にかカラになってるんだ。気付いたときにはあいつら、相当驚いただろう。 どうやって通り抜けたかって? バーテンの真後ろ、カウンターと棚の合間を抜けたのさ。下手をすれば息遣いさえ聞こえる距離をな。ちなみにノクターナルの力は使っていない。 言っただろう? 後で俺の隠密の腕前ってのを聞かせてやるって。これがその一つさ。 隠密を極めるってのは、足音や気配を立てないことじゃない。見えているはずの姿さえ見えないように、完全に周囲に溶けこむことだと考えればいい。この頃には俺は、間近に来て接触でもしないかぎり、すぐそこの物陰に屈んでいたって見つからないくらいのことができたんだぜ? ま、信じなくてもいいけどな。 ともあれ、強欲な女リーダーはきっと、仲間の誰かが盗んだと疑っただろう。で、内部崩壊ってところに違いない。実際のところは知らないがね。
それに比べると、ソリチュードの仕事は今一つ面白みに欠けていた。 宮殿にいる従士の一人が依頼人でな。これも名前は伏せておくよ。約束を守らず勝手をする船長に、身の程を思い知らせてやりたいから、ヤバい品物をこっそり荷物に仕込んで、密輸の咎で逮捕されるように仕向けるんだとさ。言ってみれば、よくやってる「オトリの仕事」の、少しデカいヤツってところだった。 面倒なのは、仕込むための品物そのものを調達しなきゃならないことだった。バルモラ・ブルーとかいう、スクゥーマみたいな麻薬だったか。これは、港に停泊している別の船の乗組員が持ってるらしい。見つけ出して話しかけると1500ゴールドで売ろうと言うから……買ってもいいんだが、悪いが俺は商人じゃなく、盗賊としてそこに来たんだ。どこか近くに隠してあるんじゃないかと、少し探してみることにした。 あったね。人間の女、サビンって言ったか。そいつが港に寄るたびに利用している隠し場所なら、そう遠いところにはないだろうって予測は当たりだった。桟橋の下だ。俺だから長時間もぐって探せるが、アルゴニアン以外の種族じゃ、ちょっと大変だったかもな。 あとは、船……海賊船だったが、その中を完全に見つからないように進むことにトライした程度で、別に面白いアクシデントもなかったな。 ん? ああ。いや。ギルドには不殺の掟があったが、それは市民や衛兵の話で、こういう場所で出くわす山賊だのは入っていない。それでも俺が殺さずに出入りしたのは、第一にはそのほうが面白いからさ。 俺自身のチャレンジとしてもそうだし、なにより、事件が明るみに出たときが面白い。衛兵に踏み込まれ、身に覚えのない代物が見つかる。それでやっと、いつの間にか誰かが忍び込んでいたと知るが、それがいつか、どんな奴かは、誰一人としてまったく知らない、分からないんだ。 こういうのは、スカイリム中に広がる噂になる。 だが死体の一つでも見つかっていたら? 進むのに邪魔な相手を殺すなら、侵入はずっと楽になる。楽なことをしたって、誰も驚かない。信じられないようなことをするから、人が驚き、話題にして楽しむんだ。単なるこそ泥じゃない。極めつけのスキルを持った、本物の盗賊だ、ってね。 それに、これだけのことをして見せれば、口さがない連中も黙らざるをえないし、悔しかったら同じだけのことをするしかなくなる。 まあ、正直に言えば、やる前にはそこまでは考えてなかった。だがやってみたら、それでなにもかも上手くいった。楽しみながらほしい結果を手に入れられるなら、そうしない理由はない。そうだろう?
ギルドの隆盛は間もなく知れ渡り、そこら中の街で噂に上るようになった。 伝説の盗賊、ノクターナルの加護を得たナイチンゲール。ギルドの中では公になったこの名前が、ちらほらと世間の口にも上るようになっていった。 ラグド・フラゴンに店を出す商人たちも揃って、ギルドが最盛期の勢いを取り戻すのもそう遠い未来のことじゃない、そう思えるようになった、そんなある日だ。 俺が仕事を終えてギルドに戻ると、貯水池の周りにみんな集まっていた。 中にはそのとき初めて見る奴もいたな。いったいどうしたのかと思って手近な奴に話しかけたら、ギルドマスターの件でブリニョルフが探してると教えてくれた。 すっかり忘れてたが、どうやらブリニョルフはちゃんと覚えていたらしい。 彼は訓練室にいた。俺は最後の悪足掻きで、「あんたになってくれとは言わないが、だからって俺に務まるとは思えないんだが」と言ってみた。ま、聞いちゃもらえない。それに、じゃあ他に誰が適任だと思うんだと言われたら、誰の名前も出てこなかった。ブリニョルフ? 俺は適任だと思ってたし、今もそう思うんだが、ヴェックスがな。マスター不在の間、ブリニョルフは代理を務めてたわけだが、なんかいろいろと文句があったようでさ。その話を聞いてると、真面目すぎるっていうか、あれこれ詰め込みすぎるっていうか……。まあ、彼女の望むマスター像に合わなかったのは間違いない。 それで俺が黙りこむと、ギルドのこまごまとした面倒は俺やデルビンで見るから、おまえは好きにしていればいいなんて言い出した。 おいおいおい。それじゃマスターもなにもないよな? 単なる一構成員とまったく変わりない。それなら別に誰だっていいじゃないか。 それじゃあなんで俺なんだ? これが最後なら、食い下がるのも今しかないと、俺は珍しく追及した。
ブリニョルフの答えは、結局のところ、"腕"だった。 ノクターナルの力が届かなくてさえ、何事もなく仕事を遂行しつづけた"腕"。不運の入り込む余地がない、あるいは運に左右されないくらい、徹底して身についたスキル。 ブリニョルフは、俺にもっと奥に来るように促した。 そこで俺は、とうとう……まあ、その、嘘にも限界があるってことだ。特に、嘘なんかついていられない土壇場では。 ブリニョルフは、「おまえがギルドに来るまで、どこでなにをしていたのかは聞かない」、そう言った。ただ、ちょっとした"手先の仕事"とか"夜間の仕事"では済まない、特殊な技能を持ってることはもう確信している、と。 イルクンサンドの聖域で、ブリニョルフは魔法のせいでカーリアを攻撃していたし、必死でそれを抑えようとしていたが、同時に、メルセルと一対一でやりあうハメになった俺がどうしているのか、それも気にかけていた。だからそこで、俺の本当の能力を見ることになった。……いや。逆だな。見ることができなかったんだ。俺をまったく見つけられなかった。だから一瞬は、逃げたのかと思ったそうだ。だがメルセルは探し続けている。どこかにいるのか。もし逃げたのならそれでもいい。そう思っていたとき、決着がついた。そのときやっと、横目に見上げれば見えていたその場所、エルフ像の襟元に、俺がいたことに気付いた。 その瞬間、俺がそういう……一年やそこら盗賊修行した程度で身につくものじゃない隠密の技術と、極限下でも動じず一瞬でケリをつける、そういう"技"を持っていること。それをずっと隠していたことを、確信したんだと。 「だからって、それはどうでもいい」 ブリニョルフは言った。おまえはギルドに入ってからずっと、ルールを守って余計な殺しはせず、それどころか余計な盗みすらせずやってきた。だから俺はおまえを信頼している。ただ、俺……おまえがそういう隠し事をやめ、"盗賊として"本気で持てる力を発揮したら、今までよりもすごいことができるはずだ。おまえはただ"すごいこと"をして、皆を驚かせればいい。他の誰よりも……いやまあ、自分で言うのもなんだが、これはあくまでも、ブリニョルフが言ったことだからな? 「他の誰よりも抜きん出た力で、誰も敵わないマスターになればいい」
―――そこまで言われて、断れるわけない。 俺が元は暗殺者だってことくらい察しただろう。でもそれでも、ここに来てからの俺を見て、一緒にやっていける仲間だと認めて、受け入れてくれたんだ。 身につけたスキルが元はなんのためであったにせよ、今は"盗賊として"思う存分働いて、世の中もギルドの奴等も驚かせてやれ。そういうマスターでいいんだと。 俺が分かったと答えると、ブリニョルフは一度だけ強く俺の腕を掴み、「じゃあ行こうか。みんながお待ちかねだ」と、先に立って訓練室を出て行った。
貯水池の中央で正式に儀式をやるというから、俺はブリニョルフについて貯水池に戻った。 いつの間にかカーリアまで来ていて、えらく改まった雰囲気だった。 ブリニョルフは、マスターになるってことは、すべての仕事の分け前がもらえるってことであると同時に、この無秩序な集団の指導者になるってことでもある、と言い、デルビン、ヴェックス、カーリアの三人、つまりは幹部と言える三人に、それぞれ俺がマスターになることに同意するかどうかを尋ねた。デルビンは賛成し、ヴェックスはそれがいいと言った。カーリアはもちろんと答えてくれた。満場一致だから、俺は幸運と長寿を願うだけだとブリニョルフは言った。 ―――で、それだけだった。 「そういうことで、じゃっ、解散! ほらみんな、仕事に戻れ!」くらいであっさり終わってさ。こんなもの、こんなところでやらなくたって、ラグド・フラゴンのテーブルでやってもいいじゃないか。なあ? なにか期待していたか、なんてブリニョルフにからかわれたっけな。だが、なんていったっけ……特殊なアミュレットと、上納品入れの宝箱の鍵をもらって、ずいぶん真面目な声でギルドの繁栄と就任を祝われると、ひどく照れくさかった。 しかし、一番びっくりしたのは、それこそ本当にいつの間にか、メイビンのババアまで来ていたことだ。せいぜい粗相をしないことです、とか言っていたが、まあ、こいつはいつもこんなもんだから、気にすることもない。 トニリアからはギルドマスターの鎧をもらった。見た目はほとんど変わらないが、上質な材料で作られているせいか、更にぴったりと体に馴染む。粗悪な防具で動きが邪魔されることに比べると、まるで自分の能力が上がったように思うくらいいい出来の代物だった。 上納品の宝箱には定期的に仲間の仕事の上がりが入ってくるが、俺はそんなものほしくないから、これは貯蔵庫に仕舞っていくことにした。
と言っても、ギルドの復活が本格的な、間違いのないものになると、手が足りないからってデルビンたちは仕事の依頼を断らなきゃいけないことまで出てきたし、一度は空にされた貯蔵庫も、どんどん金や財宝で埋まりはじめた。使うより多くの金が入ってきて、長年
貧乏暮らししてた連中は、その金をなにに使っていいか分からないくらいだった。 ギルドに入りたいって連中も増えて、今までは来る者拒まずだったのが、人員の選別も必要になった。ギルドのやり方―――ただの泥棒じゃない。義賊ではなくとも、他人から敬畏を払われるだけのスキルを持ったプロ集団であること。それに従えない奴は拒否したし、時には除名したりもした。 俺は一応マスターで、そういうことがあれば報告はされたが、俺自身があれこれ決めることはほとんどなかった。そういうのはブリニョルフたちにお任せさ。 だからかな。俺がマスターだって知らない奴もけっこういたはずだ。なにせブリニョルフはいつまでも俺を小僧小僧って呼ぶし、ヴェックスからは尻を叩かれるみたいにして仕事に出かける。だいたい、三日前に入ってきた新人と同じような仕事のためにデルビンのじいさんに話しかけてたりするんだから、これがマスターだなんて言われても、普通はなにかの冗談だと思うよな。
まあ、信じられないし、予想だにしなかった成り行きだ。ブラックマーシュからスカイリムに来たのは仕事。そいつをしくじって帰れなくなり、隠れ場所
兼
寝床と仕事場くらいのつもりで入ったギルドで、いつの間にやらマスターだと。 だが面白かったな、それまでの出来事も、それからのことも。 特に……、あぁ、一番楽しかったのは、ブリニョルフとカーリアと一緒に"仕事"をするときだ。そう、"ナイチンゲールの三人衆"だ。 カーリアがすごいお宝を嗅ぎ出してくる。こういう勘や嗅覚、早耳は彼女が随一だ。それを具体的な計画に落とし込んでいくときは、ブリニョルフが采配を振る。 俺は最前線だ。背後と脇は、最高の盗賊が守ってくれている。俺は心置きなく、ただし油断せず、細心に、進むだけ。 そして、伝説でしかなかったような宝を盗み出す。「ファルメルの目」みたいな、とんでもないヤツを。 ん? それじゃ泥棒じゃなくトレジャーハンターだって? まあそうかもな。だがそういう財宝は本来、その土地の権利者とかのものになるわけだから、かすめ取っているのは間違いない。 もちろん失敗もあった。見つけ出してみたら、たしかに話どおりのお宝なんだが、古すぎてもう泥の塊でしかなかった、なんていうさ。大量に張り巡らされた古代ノルドの罠、ドラウグルの集団、更にはやたらと強力なゾンビ魔導師。そんなのを乗り越えてやっと辿り着いた最奥地で、巨大な宝箱の中にあったのは一掴みの泥。三人で顔を見合わせて絶句して、それから大笑いしたっけ。あのときの二人のぽかんとした顔。それから、ギルドに戻ってみんなで飲みながら、待ってた連中に一部始終を話して聞かせたこと。今でも覚えてる。 ああ。本当に楽しかった。最高に。……最っ高にな。 |