たしか、ブロンズウォーター、だったかな。俺たちが出てきた洞窟の名前だ。ヨルグリム湖独特の色合いからついたとかなんとか聞いた覚えがある。そこで別れた俺たちは、それぞれの道に向かった。 ブリニョルフはまっすぐギルドへ。マスターにはなりたくないって言うくせに、こういうときに指揮する責任があるとは思ってるんだから不思議だ。たぶん、いざなにかあったときのマスター代理って役割は決められていて、それは引き受けていたんだろう。で、引き受けた以上はそれを全うしようとする。考えようによっては、だからこそマスターにはならないほうがいいのかもしれない。真面目すぎるからさ。なんでもかんでも背負っちまいそうだ。特にそれが、仲間のため、ギルドのためになるとな。 カーリアは、ガルスに報告するため、雪帷の聖域へ行ったのかもしれない。聞いちゃいないが、今思い返すとそんな気がする。「終わりが始まった場所」へ、「終わりが終わったこと」を伝えに行った。どうだ? 最愛の人の仇を討てた女として、ありうるか? でも俺にはそういう、行かなければならない場所ってのはなかった。もちろんギルドに戻って一休みすればいいんだが、なんとなく一人になりたかった。一人で考える時間がほしかった。「不壊のピック」を早く返さないといけないのは分かっていても、今すぐに向かうには疲れも取れてなかったし、なにより、なんだかいろんなものが俺の頭の中、胸の中をぐるぐる回っててな。もちろんそれは無視しようとすれば無視できるし、忘れようとすれば忘れられる。だけどそのときは、そいつに少し付き合いたい気分だったんだ。
俺はホワイトランへ向かった。あそこには有力な支援者がいたから、多少のことで衛兵に絡まれる心配はない。なにより、すぐ近くのホニングブリュー醸造所に、俺に個人的貸しのある奴もいる。 客のふりして店で会うと、マラスもギルドで一騒動あったことは知っていて、それが自分の地位と財産を脅かさないか、やたらと気にかけていた。だから、俺がすっかりもう片付いたこと、今片付けてきたことを伝えると、それなら良かったと喜んで滞在させてくれたよ。まあ、あいつの場合は少しでも俺に借りを返しておいたほうが得だからだろう。はは。そういう奴もいるさ。 バナード・メアに泊まらなかったのは、あそこだとどうしても客のふり、もっと言えば、前にホワイトランを訪れたときと同じ「俺」のふりをしなきゃいけないからだ。そんなことに労力を使わずに、俺自身としてぼんやり過ごすには、醸造所の二階は最適だった。忙しい時期じゃなかったから、職人たちが酒の様子を見に来るのも朝だけだ。マラスから、個人的な客がいるからそっとしておけって言われてるらしく、話しかけられることもなかった。 そこで考えたり思ったりしたことなんか話しても仕方ない。うまくまとめて話すことなんて、今でもできないしな。 ただなんとなく、そうだな、気持ちの整理をつけたって思ってくれたらいい。俺に生まれた変化のことや、これからのこと。結論や答えは出ないままだったが、「まあいい。なるようになるし、さあ行くか」、そう思えるようになるまでの、ぼんやりした時間さ。
さて。 言うまでもないが、俺の……盗賊ギルドの物語は、もうかなり終わりに近づいている。 最後の目的地は「黄昏の墓所」だ。 そして、そこへ通じる道の一つ、「巡礼の道」は、ファルクリースの傍……比較的という話でいいなら、ファルクリースの傍にあった。 俺はホワイトランから馬車でファルクリースへ向かい、そこからは徒歩で目指すことにした。 カーリアに教えてもらったのはだいたいの場所で、とりあえず西へ行けばいいと聞いていた。 雨が降っていた。なぜだか覚えてる。ぱらぱらと小雨が降る夜明け前に、俺はファルクリースを発った。 なんだか妙な気分だった。カーリアとブリニョルフの二人とともに行動したのは束の間、長くても、そうだな、立石で落ち合ってからでさえほんの数日ってところのはずなのに、一人きりで目的地へ向かっているのが不思議な気がした。一人でいた時間のほうが圧倒的に長いっていうのに、くすぐったいような、変な感じだ。 だがとにかく、そのときの俺にとってはっきりしていたことは一つ。ピックを返して、ギルドを元のとおりの面白い場所にしよう。それだった。
ん? ピックをしばらく持っていようとは思わなかったのかって? 便利な鍵開けの道具。そのうえ、才能を開花させる力まであるデイドラの秘宝? いや。全然。 俺にはほしいものなんてない。金も、宝も。あえて言うなら、ピックを折って舌打ちしながら手ごわい鍵を開ける、それそのものが面白い。だから、折れないピックなんてどうでもいい。 それに、才能がどうとか、そっちも別にほしくなかった。俺は、デイドラのピックの力を得て25年間、その恩恵に与っていたメルセルを自分の力で倒した。隠密と弓、更に言うなら平常心。そういう、つまりは暗殺のスキルで。それで十分じゃないか。変なアイテムに頼らなくても俺は一流だ。もちろん欠点はあるし、できないことも多い。だがそれでなにが悪い? だから返した。 なにより、ピックを私物化すれば俺はメルセルと同じだ。俺がギルドにいるためには……必要のない嘘をつかず、カーリアたちと気楽に楽しくやるには、ピックは返さなきゃならない。返すのは、当たり前だろう?
返す約束だし、特にほしいとは思わない。 だから俺は普通に、ごく当たり前に、巡礼の道の入り口になっているという場所を目指した。 街道に沿って歩いて行くと、やがて左手に入る小道が見えた。このまま街道を進んだら、どんどん平地のほうへ行くような気がして、俺はその小道に入ってみることにした。 少し行くと砦が見えた。なんて名前かは知らない。けっこう大きかったはずだ。俺はそこで急に、今は一人で、戦いになっても誰も助けちゃくれないってことを思い出した。油断大敵だ。 案の定、砦は山賊の根城と化していた。奴等がウサギだ鹿だを追い回している間に、俺は身をひそめながら砦を迂回して進んだ。 街道みたいなものはないにしても、自称信徒ってのが時々通るんだろう。獣道みたいに自然とできたような道はあって、それを辿っていくとやがて、明らかに人の手で作られた立石が見つかった。ノクターナルの印なんてものはなかったが、岩壁には扉が嵌めこまれていて、そこに間違いはなさそうだった。
入ったところは洞窟だったが、すぐに広い人工の空間に出た。なかなか立派な階段と門が築かれた場所だ。 そこに、青白く光る霊体が一人佇んでいた。俺は反射的に身をひそめて気配を殺し、しばらく様子をうかがった。 そいつに敵意は感じられなかった。どちらかというと、途方に暮れてぼんやりと彷徨っているような、そんな印象だ。 俺が姿を見せると、そいつはすぐに気付いて俺のほうへ顔を向け、ゆっくりとこっちに歩いてきた。 ありきたりでなんだが、「アンタは誰だ」って聞いてみると、そいつは男の声で、ナイチンゲールの衛士、その最後の一人だと答えた。長い間、たった一人で墓所を守っている、と。 これがつまり、「死した後も守護する」ってことか。それなら俺もいずれこうなるのかと思ったが、まあそんなことは今はどうでもいい。衛士はどことなく虚ろで、俺が尋ねもしないのに独り言みたいに語りだした。他の仲間は、この衛士の不注意でいなくなってしまったという。腹黒い裏切り。注意深くしていなかったがため、ピックを盗まれた。そして霊体の口から出たのは、メルセル・フレイの名だ。 そうだ。俺もまさかと思った。 アンタはガルスなのかと聞くと、どうやって自分のことを知ったかと尋ねてきた。間違いないらしい。まさかな。噂のって言うのも変だが、とにかくこの一件に関わりのあるギルマスに、まさか会うことがあるなんて思ってもみなかった。 姿形はぼんやりして、どんな顔をしているのかとかはまったく分からなかったが、とにかくこの男が前のギルドマスターで、カーリアの恋人、そしてメルセルに殺された男だ。学者になれるほど頭が良かったのに、スリルがほしいからと盗賊になった変わり者。 俺はもっと調子のいい脳天気なタイプを想像してた。いつの間にかそんなイメージを持ってたんだが、実際にそこにいるガルスは、落ち着いた、それとも、沈んだ男だった。無理もない。腹心の部下、あるいは親友だと思ってた男に裏切られ、挙げ句に殺され、それから25年もここで一人きり、霊体として墓守りしていたなら、どんな奴だって陽気じゃいられないだろう。 俺はピックを取り返してきたことを告げ、メルセルが死んだことも付け加えた。カーリアのことも話した。このピックを取り返したのは、俺一人のしたことじゃないと。 その瞬間、変な話だが、ぼんやりと虚ろだった男が、急に息を吹き返したようになった。 失態の償い、仇を討ったこと。しかしなにより、カーリアが無事でいたこと。ガルスは他のなによりもそれを気にかけていたようだった。真実を知る彼女をメルセルが放っておくわけはない。殺されたんじゃないか、それとも無事でいるのか。25年。霊にとってどうかは分からないが、生身ならかなり長い年月だ。その間ずっと、繰り返し繰り返し考えてきたんだろう。
もちろん、ガルスは俺に協力的だった。最初からそうだったが、そんな話をしてからは、確かに感謝、熱意みたいなものを感じるようになった。 できることならあらゆる手助けをしたいと言ってくれたが、「できることなら」、つまり実際にはできないってことだ。 ガルスの話はこうだった。 まず、大した手助けができない理由だ。自分のような影の衛士が存在するには、エバーグローム、すなわちオブリビオンにあるノクターナルの領域から流れ込んでくる彼女の力が必要だが、今はそれがほとんど途絶えてしまっている。それだけでなく、奥へ行こうとすると力を奪われ、死……消滅に近づくような気がするらしい。だから、俺と一緒に巡礼の道を進むことはできなかった。 「その"ピック"がまさに鍵なんだ」。ガルスはそう言った。「不壊のピック」は、この墓所の決められた場所に存在することで、エバーグロームとこの世界をつなぐ通路を開いていた。エバーグロームから、その通路、エボンメアって名らしいが、そこを通ってノクターナルの力が流れ込んでくる。それが盗賊たちに幸運の恩恵として与えられたり、霊魂の衛士をここに存在させたりしているという。 ところがそのピックがメルセルによって盗まれた。 それによって通路は閉じ、幸運を得られなくなったギルドは衰退した。そしてガルスも、十分な力を得られずに弱っている。他の衛士がいないのは、エボンメアが閉じた際になにかあったんだろうって話だ。今も奥に近づけば力を奪われるような気がするとガルスが言うように、通路に異変が起こったとき、近くにいた衛士を反射的に喰らい尽くしたのかもしれない。ガルスは通路が閉じた後、つまりメルセルがピックを盗んだ後に殺されたから、その消滅には巻き込まれなかったわけだ。
巡礼の道を進むため、俺が頼りにしたのは、先に挑戦した者が残した日記だ。そういう奴がいたから、なにか参考になることを書き残してるかもしれないとガルスに教えられて、広間の入り口あたりを探してみると、白骨化した死体の傍にぼろぼろの手帳が見つかった。 どうやらノクターナルのお宝目当てに、試練を受ける巡礼者のふりをして紛れ込んだ連中の一人らしい。日記の中には、他の巡礼者たちから聞き出した試練の内容がメモされていた。ただしそれはかなり曖昧なヒントで、……えーっと……さすがにどんな文面だったかなんてもう覚えてないな。はっきりと書かれていなかったことだけは確かだ。なにかのたとえみたいな、謎かけみたいな表現でな。実際にその場に行ってみれば、ああこのことかって分かる程度のものだったんだが……。光がどうとか、影がどうとか。 どんな試練だったか、仕掛けはなんとなく覚えてる。たしか4つ、それとも5つほどあったはずだ。 だが、ここの詳しい話はよしておくよ。ノクターナルのもとに通じる、秘密の巡礼の内容だ。誰かれ構わず教えていいものじゃないだろう。たまには、たかが物語でも、いかにも本当のことみたいに秘密があったっていいだろう? もしあんたがその道を辿ってみたいと思うなら、ファルクリースの西。それは本当だ。スカイリムに戻ったら、探してみるのも面白いかもしれないぜ?
俺はいくつかの試練を越え、とうとう聖域の最奥に辿り着いた。 そして、25年間不在だったピックを、本来の場所へと返した。 鍵だからな。鍵穴にさして、回すんだ。すると、手がかりも足がかりもないような井戸の底だったその場所が音もなく沈んで、俺の目の前にノクターナルが現れた。 時々見かけるノクターナル像ってのは、案外本物を活写してるんじゃないかな。ああいう感じの女の姿だ。美人かどうかは、俺にはちょっと分からないが。 彼女は、当たり前のことをしただけなのだから褒めてもらえると思うな、とか言ったかと思うと、別に腹を立てているわけではないとも言う。それからなにか、まあいろいろと。 正直なところ、なにを言っているのかなにが言いたいのか、俺にはよく分からなかった。仕事を達成して報告をしたら、「ご苦労。下がれ」。そう言われればまだマシなほうで、機嫌が悪いと出て行けって意味で軽く手を振られる。偉い奴ってのはそんなもんだと思ってたし、俺にはそれが当たり前だった。だから、こんなタイミングであれこれ言われても、どうしていいか、な。 要約すると、義務は果たして当然だが、その当然のことをきちんと守ることにも報奨は出すから受け取れ、ってことだったんだと思う。 デイドラの心理なんて俺には分からない。だから、俺を見てどう思っていたのかはさっぱりだ。イルクンサンドでのことにも一言も触れなかった。一応でもカミサマっぽく離れた場所のことも見てたり聞いてたりするのか、それともそんなことはないのか。あれは本当にただの偶然なのか、それとも、通路が閉じて力を届けづらくても、なんとかしてやろうと手を貸してくれたのか。なんにもだ。
話が終わると、ていうか、言いたいことを言い終えると、ノクターナルは姿を消した。 俺が驚いたのは、いつの間にかカーリアがそこにいたことだ。ピックが元の場所に戻ったことで、ナイチンゲールの間と聖域をつなぐ通路も復活したらしい。彼女はその通路を通ってこっちに来たんだ。 顔を出しづらいと言っていたから、ノクターナルが去るまでは影で見ていたんだろう。カーリアは、ノクターナルが喜んでいたと言った。俺にはそう思えなかったが、カーリアに言わせると、ノクターナルは子供を叱咤激励する母親のようなもので、内心では喜び、誇らしく思ったとしても、表に出すのが得意ではないんじゃないかってことだった。そう言われても、俺にはそもそも母親なんてものがよく分からないが、もし彼女の言うとおりだとしたら、面白いデイドラもいたもんだ。 ノクターナルの恩恵についても彼女から教えてもらった。一つは惑わしの技術。もう一つは隠密の技術。そして最後は諍いの技術だ。幻惑は、魔法でも同じようなのがあるが、相手とこっちの強さには関係なく必ず効くものらしい。隠密は透明化で、そして諍いは、相手にダメージを与えて生気を吸い取る。 そういえばイルクンサンドでメルセルが使ったのも幻惑と透明化だ。どっちかはここで得た恩恵だったのかもしれない。 ま、それはともかく、どれにしようか迷ったが、ここに来さえすればいつでも付け替えられるらしい。それならとりあえずでいいかと、まずは隠密の術を選んでおいた。スマートに盗むなら、見つかって相手を殺すようなことには極力ならないほうがいいだろう。それに、幻惑の術のほうは俺はどうにも使い方がよく分からないんでね。 だがそれから先も、俺がノクターナルの力を使ったことはない。必要にならなかったからさ。俺自身のスキルだけで十分だ。そうだな、メインの物語はもう終わったも同然だが、盗賊ギルドの復興って点では、もうあと少しだけオマケが残ってる。そこで俺の隠密の技術、暗殺者として身につけ、盗賊として磨いたそれがどれほどのものになったか、少しだけ話してやれるよ。楽しみにしててくれ。
さて。 俺がノクターナルの恩恵を得て、どうやってここから出ればいいのかと思っていたときだった。ガルスの霊魂が現れた。 25年ぶりの、恋人たちの逢瀬だ。邪魔したくはなかったんだが、なにせ出口が分からなかったもんでね。カーリアが通ってきた通路があることは聞いていても、その位置がはっきりしなかった。だから、できるだけ気配を殺して、静かにしていた。 そうは言っても、ガルスはエバーグーロムへ呼ばれたとかで、自分勝手にとどまっていられなかったんだろう。甘い囁きなんかじゃなく、最低限みたいな言葉をいくつかかわして、一度だけカーリアを振り返り、彼は消えた。 ナイチンゲールのマスクの下で、カーリアがどんな顔をしていたのかは分からない。もし見えていたとしても、感情を隠そうとしていたら、とても俺には読み取れなかっただろう。ただ、どうやって出ればいいのか、ガルスはどうなったんだと話しかけたとき、彼女の声は今までよりずっと穏やかで、落ち着いていて、寂しそうではあったが、不思議と満ち足りているようにも聞こえた。 そのへんは、今だって俺にはよく分からない。いい仲間が死ぬことの痛みや悲しみくらいは分かるようになっても、そういう、恋人がどうとか、そこまで深いつながりってのはな。あんたはどうだ? ……そうか。なにか似たようなことはあったとしても、25年の歳月とか、片方は霊体だとか、ちょっと特殊すぎるよな。 それに、ノクターナルのもとへ行って影と一つになることは、ナイチンゲールにとって最高の名誉なんだそうだ。それならあの別れも、ただ悲しいとか寂しいだけものじゃなかったのかもしれない。 ―――影、あるいは闇。死したナイチンゲールはそれらになって、俺たち盗賊を守護してくれるんだとカーリアは言った。つまりガルスはこの世界から消え、人だったときの姿は失ったが、その代わり、こうして存在する影、深い夜の闇の一部になって、いつでもカーリアを守っているってことだ。そう考えれば、光がさしてその向こうに影ができるとき、夜が訪れるとき、いつでも傍にいることになる。だとしたら、そう悪いことじゃないのかもしれない。 一部の古い盗賊の間で使われる挨拶、「影と共に歩まんことを」っていうんだが、それは故人となったナイチンゲール、彼等でもある影が、この身を隠し、守り、導いてくれるようにという祈りなんだそうだ。俺が入って以来ギルドで聞いたことはなかったったが、悪くない挨拶だよな。ま、少し気取りすぎだとは思うがな。
それから俺たちは、カーリアが通ってきたのとは別の通路を使って聖域を出た。転移門とかいう次元の通路で、墓所の入り口とつながるものだ。燭台には青白い炎が燃え、来たときとはずいぶん感じが違っていた。 カーリアはナイチンゲールの間に住むことにしたらしい。ギルドの中にもベッドはあるが、ギルドのメンバーであるよりも、ナイチンゲールであることを優先するようにしたんだろう。もう二度と、ああいう悲劇が起こらないように、もう二度と、面目を失わないように。 もちろん、腕が錆びつかないように、時々は街に出ると言っていた。ま、ナイチンゲールの間ならリフテンのすぐ近くだ。会いたいと思えばいつでも会えるし、カーリアのほうからギルドに来るのももちろん自由だ。実際彼女はそれからもよく貯水池に顔を出して、耳にした美味しい話や面白い噂をいくつも運んでくれた。
カーリアとはそこで別れて、俺はようやくギルドに戻った。 ピックを返したことをブリニョルフに報告すると、お互い無事で良かった、だがこれで終わりじゃないぞと言われた。大きな節目を越えたのは事実でも、それは歪められたものが元に戻っただけのことだ。ギルドの最盛期には程遠い。やることはまだまだあった。
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