足 跡
「いや、やっぱりさすが師匠じゃのう」 時折、ささやかなことで年長の弟子に賞賛されると、こそばゆいような、いたたまれないような、そしてもちろん、嬉しい気持ち、少しだけ自慢げな気持ちが湧き起こる。 もっとすごいハンターはいくらでもいるとしても、あたしも今では、ハンターを名乗ってもそれほど恥ずかしくないようにはなったと思う。 けれど、あたしは決して、要領がよく腕のたつハンターじゃなかった。 才能のある人、熱心な人は、もっと短い時間で、あたし程度のものにはなったはず。 あたしはずいぶんのんびりと、気が向かなければ数ヶ月狩りに出ないような働き方でやってきた。 その時々でせっせと訓練所に通ったかと思えば狩猟場の地図を自分で書き込んだり、武器の練習をしたかと思えば次から次へと防具セットを作ったり、すべてのモンスターの100頭狩りを目指すと言って一ヶ月もたたずにサイズ記録にこだわりはじめたり……。 ずいぶん気ままにハンター生活を楽しんできたわ。 その点、弟子のガンランス使い・シュヴァおじいちゃんのほうが、ずっと熱心に、短期間で成長したと思う。 もしおじいちゃんがあたしと同じだけの時間を狩猟に費やしたら、あたしよりずっと腕の立つハンターになるんじゃないかしら。 とはいえ、ほぼガンランス一筋のおじいちゃんに比べて、全種類の武器をひと通りは使えるあたしのほうが、まだしばらくはアドバンテージがあるかしらね?
「おーい、師匠。ごはんじゃぞ〜」 そんなことを考えていたら、キッチンからおじいちゃんの声が聞こえた。 料理はアイルーが作ってくれるけれど、アイルーではできない料理というものもあるし、たまにこうして交替で料理当番を務めている。おじいちゃんの腕はなかなかのものなので、あたしとしては文句なしね。 キッチンアイルーたちに手伝わせて、エプロン姿のおじいちゃんがテーブルにディナーを並べている。今日は、ウカムルバスから崩天玉をとれたお祝いなのでちょっと豪勢。 ほしかったのはおじいちゃんで、手に入れたのもおじいちゃんだから、どっちかって言ったらあたしがお祝いの料理をつくってあげるべきなんだけど、おじいちゃんは「師匠のおかげじゃから」と言って譲らなかった。 あたしは、数年前はさんざん人に手伝ってもらう側で、そりゃいろいろと武器も防具もG級のものを揃えてるけど、そのほとんどは「誰かのおかげ」。特にミラルーツやミラバル、ドラゴンなんて一人じゃとても武器・防具を揃えるほど狩れないし、ウカム装備だって、作った当初は誰かと一緒じゃなきゃとても狩れないシロモノだった。 だからあたしは、おじいちゃんの装備を整える手伝いをするのは、一種の恩返しみたいなものだと思ってる。あたしを手伝ってくれた人に直接じゃないけれど、後輩へ、後輩へと受け継がれていく恩返し。それって少し素敵じゃない?
あたしは気ままなハンターだし、すごい武器や防具は人様のおかげだし。 そんなあたしでも、不思議なものよね、気がつけば人を手伝う側で、以前は自分が誰かにしてもらっていたことを、今は自分が誰かにしてあげてる。 そう。 数年前のあたしは、下位のティガレックスにさえてこずって、上位を怖がってた。 もちろん、今はG級の装備が揃ってるけれど、G級の武器・防具でG級に挑むのと、下位の武具で下位のモンスターに挑むのはほとんど同じ。 そして今のあたしは、G級だから狩れないなんて思わないし、誰かと二人で行くときも、足手まといになるからゴメンとは思わない。 昔よりは確実に強くなったんだなぁと思う。こんなあたしでも、強くなれたんだなぁと。
豪勢な食事の後で、あたしは本棚から手帳を取り出してみた。 あたしがずっとつけているハンター日誌。 別に隠すようなものでもないから、堂々と棚に並べてあるけれど、気がつけばずいぶん溜まったものだわね。 パラパラとめくってみると、昔の自分の書いていることが可笑しくてたまらない。今のあたしなら「なに言ってんのよ」と言いたくなるような勘違いもあるし、「こんなことできなかったのねぇ」としみじみすることもある。 読み返すと恥ずかしいような記録もあるけれど、間違いも勘違いもビビリも自惚れも、すべて、あたしがここに辿り着くまでにつけた、一つ一つの足跡。 そういうあたしが今ではこうなったっていう、成長の記録でもある。 あたしは「弓、使いはじめました」というタイトルを見つけて、この日だったのかと懐かしくなった。 それまで太刀ばっかり使っていたあたしが、遠距離武器として選んだのが、コストのかからない弓だったのよね。ボウガンは弾代がかかるからイヤだと思ったの。 それで、逆に今じゃとても無理に思えるんだけど、あの頃はテオやナナ、クシャルダオラを狩るときには、角を折るまでは弓で戦ってたのよね。頭を狙えば風鎧にも弾かれないからって。そう、つまりあたしは、地形ダメージ無効のスキルがついた防具を作るんじゃなく、近づかないことを選んだわけ。 今は逆。貧弱なガンナー装備で古龍の一撃なんかもらおうものなら即瀕死。第一、テスカ系の突進は距離が開いてるほど避けにくかったりもするし。だから、地ダメ無効の防具でまとわりついたほうが絶対に楽だと思ってる。
「師匠? なに読んどるんですかいの?」 キッチンの後片付けが終わったらしくおじいちゃんが出てくると、はずしたエプロンで手を拭き拭き尋ねられた。 「あたしの記録。ま、全部振り返ろうと思ったらちょっと読む気力なくなりそうだけどね」 「ああ、日記ですな」 「我ながら、よくもまあこんなに書き溜めたと思うわよ。でも、きちんと書き残してあるからこそ分かることもいっぱいあるのね。ねえ、聞いてよ。あたしったら、火炎袋はレウスとかレイアからしかとれないと思い込んでてさ、出ない、出ないって騒いでたら、クックからとれますよってあっさり言われたこともあるの」 「ほー。師匠にもそんなときがあったとはのう」 「おじいちゃんも書いてみる?」 「いや、わしはどうも、そういうのは苦手じゃし……」 「そう? 残してあると、後でいろいろ面白いこともあるけど、ま、人それぞれよね」
こんな記録を書き残していくかは人それぞれ。 だけどたぶんあたしはこれからも、後で読み返すと情けないようなことでもなんでも、なにか印象に残ったりすれば書き残していくつもり。 さて、今日はウカム討伐のことでも書きつけておくことにしましょうかしらね。おじいちゃんと二人で挑んだ最初のときには、何度も何度も失敗したけれど、今回は案外滞りなく討伐できたわ。 そうそう、ウカム討伐に必須だからって、強走薬グレートのためにゲリョス狩りを繰り返してることも書いておかなきゃ。ゲリョスには悪いけど、死に真似しないと「軟弱者」とか言っていじめてるのよね。「これだけボロボロにされたら、死に真似したほうがまずいと群れで学習するんじゃ」なんておじいちゃんも言ってたっけ。ま、そりゃそうよね。ゲリョス狩り専用に気絶無効・高速剥ぎ取り・防御+30の防具作って、死に真似中に最低2回、うまくすれば3回剥ごうなんてやってるんだし。 ちなみにおじいちゃんの装備は、上から、メルホアZ・ゲリョスZ・グラビドZ×3よ。「どう見ても頭が弱点」て、うまいこと言うわ、おじいちゃん。 あたしはランポスS・メルホアZ・バサルX・グラビドZ・バサルX。ビジュアル的に腰がどうにも許せないんだけど、仕方ないわね―――。
2008.5.6、弓を使い始めたようです。 そして何故かずっとセカンド武器とでも言いたげな使用回数を誇り(と言っても250回程度なわけですが)、ランスに取って変わられるまでには実に長い時間を要しました。
プレイ記の内容をEvernoteに移しつつ整理していて目にしたものから、ふと書きたくなったSSです。 おじいちゃんはLさんのキャラクター。ちなみに私のはREGINAなので、女言葉ですが、オカマです、ご心配なく。 あと、「一年前ってなに書いてるんだ?」と思って見てみたら。 防具リスト作ったの、一年も前だったんですね! いやー、そんなに時間たってると思ってませんでした。 ちなみに現在、剣士用65セット、ガンナー用39セットです。 |