デートするたびに、「今日こそヤれるか?」というところで何度も何度も、「あ、アタシもう帰らなきゃ」と去られる虚しさってものを堪能してまいりました。 けっこう軽いオンナだと思ってたら、意外に身持ちが固かったです、ナナさん。 ええ、言うまでもありませんが狩りの話ですよ?(←このコーナーに書いておいて誤解してくれる親切な人は誰もいないと思う
ここからバカでアホで珍妙な展開になりますので、 お付き合いくださるかたは存分にご注意ください。
―――そう。 ナナさんをオとすにはけっこう手間がかかりました。 まず、最初はろくな準備もせずいきなり押しかけました。 何故って? それは……とりあえずお姿だけ見てこよう、と思ったからです。 火山にステキなカノジョがいるらしいとの噂は聞いていましたが、自分に自信が持てない間はとてもアプローチなんてできません。それでも、そろそろお相手してもらえるような気がしないでもなくなってきたので、とりあえず一目見てみようじゃないかとカノジョの家に押し掛けたのです。 無論、勝手に寝室に入りこまれたカノジョのご機嫌は最悪で、問答無用に襲われました。 カノジョが寝室から出てしまったので、ボクも追いかけて行きました。当然ですね。見ず知らずのボクと、一番プライベートな部屋で過ごすなんてありえません。 そもそも見に来ただけなのだから、すごすごと帰ればいいのでしょうが、ダメです。ボクはもう一目でナナさんのトリコになってしまいましたし、それになんとなく、飾らない自分でもなんとかお付き合いいただけるんじゃ?という気がしたのです。 居間で、客間で、逃げるカノジョを追いかけつつ、アタシの家から出てってよという猛攻をかわしつつなんとかアプローチを試みるも、ナナさんは歯牙にもかけてくれません。 やはり、身だしなみも適当、プレゼントのひとつもないままでは、ボクの手におえるナナさんではありませんでした。 これではどう足掻いても無理だと判断すると、ボクは早々に引き揚げました。 そこから、ボクとナナさんの交際が始まったのです。
どうすればナナさんとイイ仲になれるか、カノジョをボクのモノにできるかと考えました。 ハウツー本を参考に、ボクのナンパテクニックの程度というものも考慮します。 その結果、どうやらボクの場合、レウス装備にさりげなくブラックボウなんか持参するのが、一番良さそうに思えました。 何故レックスとレウスで迷ったか? ナナさんの行く場所はいつも決まっているわけですから、ストーカースキルは必要ありません。ただ、ボクの持ってる勝負服というのはほとんど限られていて、ナナさんと並んで恥ずかしくないような服は、剣士用レックスかガンナー用レウスしかなかったのです。 レックス剣士で押せ押せでいくか、レウスガンナーでつかず離れずの距離から攻めるか。 ボクは最初の日のナナさんの振る舞いを思い出し、ナナさんって実はさびしがり屋なんじゃないかと思っていました。だって、ボクがあんまり離れていると、それはそれで話がしにくいからか、猛烈な勢いでこっちに走ってくるからです。 その勢いで抗議されたら、たとえ打たれ強い(ボクが持ってる中では)レックス装備だって、そうそう耐えられません。しかもナナさん、けっこう気まぐれで、こっちに向かってくるとは限らないんですよね。それで、避けようとしてかえってまともに食らってしまうこともあったりして……。
だからボクは、ナナさんの脇のほうから、しつこくしつこく食い下がりつつ、口説くことにしました。 その甲斐あってか、二度目のときはナナさんも、炎を吐きながらではありましたが、幾度となくボクに話しかけてくれたのです。 ボクはナナさんの炎に焼かれないように、ナナさんの耳元へと愛の囁きをブラックボウに乗せ、撃ちつづけました。 ナナさんもきっとボクに気がある。 そう確信はしたのですが、途中で急にナナさんは、もう帰らなきゃと言って飛び立ってしまいました。 後には、ナナさんからボクへのプレゼントとして、ナナさんの鱗や甲殻が残されていました。
こうなったらボクも俄然やる気です。 しかし気力を充填せずには、さすがにナナさんは手ごわい相手です。 ボクは日をあらためてナナさんを訪問することにしました。 いえ、前回のものはもうデートの段階だったと思います。そりゃナナさんの家の中でしたが、ボクたちは居間や客間で、熱心に語り合ったのですから。 二度目のデートも、ナナさんの家でした。 ナナさんにはきっと、怖いお父さんでもいるのかもしれません。だから、お父さんの目の届かないところでボクと二人になることはできないのでしょう。 お父さんに見られているならなおのこと、ボクの強いところをしっかりと見せなければなりません。 ボクは前回にも増して、しっかりと身だしなみを整えていくことにしました。 ナナさんが気に入ってくれるといいなと、ニトロダケからつくった香水もたっぷり持っていきます。 勝負は前半です。ここで一気にプレゼント攻撃です。もちろん、これじゃ物足りないなって様子になったときのため、現地調合の素材も持ち込みました。 それから、ナナさんの付き合うだけの体力が必要なので、体力回復薬も充分に、調合分も持ち込みます。
ところが、二度目のデートは大変でした。 ナナさんの機嫌が悪かったのです。 ボクは前回と同じように、カノジョの傍を、鬱陶しくないよう、それでいてカノジョがさびしくないよう、絶妙な位置取りでキープしつづけたはずなのですが、ナナさんはとにかくボクに向かって突っ込んできます。 ナナさん、いったんどうしたんだろう。前はもっとボクに話しかけてくれたのに、今回はボクはすぐ近くにいるっていうのに、その短い距離すらボクへ向い走ってくるのです。 ……もしかして、なにかツラいことでもあったんだろうか? でも素直になれなくて、こんなふうにボクを傷つけるんだろうか。 受け止めてあげたい。 でもボクは、ナナさんを受け止めるには弱くて、小さくて……。 ボクは必死にナナさんの体当たりをかわしながら、時には弾き飛ばされながら、隙を見てはナナさんに話しかけました。 ボクの熱心な説得は、つい力が入りすぎたのか、カノジョのステキな角が割れてしまいました。 それと同時に、時折まとっていた炎のヴェールも脱げ落ちてしまったようです。 そうして20分もした頃でしょうか。ナナさんは急に我に返ったように、そして苦しげに頭を振ると、「もう帰って」と呟いて、カノジョ自身も去ってしまいました。 後にはやっぱり、ナナさんのプレゼントが残っていました。ボクは、ナナさんの角のかけらを握りしめ、絶対に力になってあげるんだと固く誓ったのです。
いったん帰ったボクですが、やはりどうしてもナナさんに会いたくなりました。 カノジョはきっと苦しんでる。そんなときにひとりにしていいんだろうか? ボクがもっと強ければ、カノジョの突進すら受け止めて、炎さえものともせずに抱きしめていてあげられるのに、そんなことができるのはきっと、ナナさんの昔のオトコだという噂のテオくんくらいでしょう。 でも、種族が違うからって、体格が違うからって、それは諦める理由にはなりません。人はいつも、楽な道を選びたくてなにか言い訳をするのです。でもボクは、どんなに困難でもナナさんを諦めたくはない! ボクにテオくんみたいなことはできないけれど、ボクにはボクなりの愛の伝え方があるはずです。 ボクは、せめてもの抵抗に、よりいっそうの準備を整えて、なけなしの香水も携えて、その日のうちにもう一度、ナナさんのところを訪れることにしたのです。
ナナさんはやっぱり、何度も何度も、ボクに向かってきました。 ボクはそれをかわしながらくり返しくり返し語りかけました。 受け止めてあげたら、きっとナナさんは安心できるだろう。でもボクにそれはできない。ボクはナナさんの全身全霊がこもった体当たりを、受け止めてあげることはできない。ふがいないけど、ボクはしょせんそれだけの人間です。 でも、たとえそうでも、ボクは絶対にナナさんをボクのモノにしたいのです。 あさましさに自嘲しながらも、ボクはひたすらナナさんへと語りかけました。 そうしてとうとう、ナナさんは疲れ果て、力なく、けれどボクには追うことのできない大空へと去ってしまいました。 今度は爪のかけらをボクの手に残して……。
ボクじゃナナさんには釣り合わないんだろうか。 何度アタックしたらボクの気持ちを受け止めてもらえるんだろうか。 ボクも疲れていました。 いったいいつまでこうして、すれ違う思いを戦わせなければならないのか。 でも、ナナさんは角も爪もボクに残してくれた。 それはもう、かなりボクへの思いが高まっている証に違いないのに。 ナナさん、いったいなにを考えてるんだ。ボクをからかって遊んでるだけなんだろうか?
……いや。 もうあとひと押しだ。 ナナさんの角と爪を確かめて、ボクはそう自分に言い聞かせました。 そして、ここまできたらつかず離れずなんて曖昧な距離はやめて、もっとナナさんに迫るべきなのかもしれない。 そう、このあたりでボクの男らしさをしっかりとアピールし、頼りがいがあるところ、少しくらい強引にもなれるんだってところを、ナナさんに見せたほうがいいんじゃないだろうか。 ボクはレウス装備を脱ぎ捨てると、一張羅のレックス装備に着替えました。 そして背中には、龍属性の次にナナさんに効果的だという氷の太刀を。 もう香水なんて小技は必要ない。今のボク、そしてナナさんに必要なのは、奪い取るような強引さなんだ。 そうしてボクは、ナナさんの家に向かうべく、ポッケ村を出ようと村長のところへ向かったのです。
ところが、ナナさんの家には行けなくなっていました。 いったいどうしたんだ、ナナさんはキリンちゃんと違って、いつもいてくれるんじゃなかったのか? せっかくレックス装備で大勝負に出ようとしたのに……。 ボクは少しばかり動揺し、狼狽しました。 しかしです。 ふとナナさんの名前が目に留まりました。 今まではそこに存在しなかった、樹海の奥の古びた塔。ナナさんはどうやらそこにいるようなのですが、……ボクは不安になりました。ここにいるナナさんは、ボクが今まで一生懸命愛をささやいたあのナナさんなんだろうか。それとも、あのナナさんは苦しみに耐えかねて一時姿を消し、ここにいるのはまた別のナナさんなんだろうか。 迷いはありました。 ですが、ボクには「行く」という選択肢しかありませんでした。 これがあのナナさんなら、家を出てこんな辺鄙な場所にこもってしまったというのは、なにか特別な理由があるからでしょう。 これがあのナナさんでなかったら、戻ってくるまでの間、ボクには待つしかないのです。それまでの時間、どこにいようと同じではありませんか。
ボクは古塔へ向かいました。 ガブラスやギアノスなんかは相手にしていられません。とはいえ、強い男になるために、エリア1での採掘だけは欠かすことはできません。 それだけを寄り道に、ほかのすべては一切無視して、ボクはまっすぐに塔の頂上を目指しました。
そこにナナさんは……ボクのナナさんはいました。 傷心と、きっと葛藤や煩悶もあったのでしょう。泣き疲れたように眠っていたナナさんは、ボクが近づくと目を覚まし、「もう私に近寄らないで!」と叫びました。 きっとボクの存在がカノジョを苦しめている。 でも、ナナさん。 ボクはナナさんのすべてがほしい。 そのきれいなたてがみも、そして、しなやかな尻尾も。なにもかもがほしいんだ。 時には、傷つけることでしか愛を伝えられないこともある。 力任せに奪い取る、そんな暴力こそが、あなたがほしいという愛の証になることもある。そんな強引さがなければ信じられないほど、深く傷つき、恋に怯えた心だってある……。 ボクは執拗にナナさんの尻尾を狙いました。 その甲斐あって、間もなくナナさんの尻尾の先端は斬り飛ばされ、ボクのものになったのです。
そうしてまた少し時が過ぎました。 ずっとボクに付き合ってくれた親友、アイルーのテムジンがここぞとばかりにナナさんの身動きを封じます。ありがとうテムジン、君がいたからボクはここまで来れたんだ。 ボクはテムジンに感謝しつつ、ありったけの思いをこめて弓を引きました。 そうしてついに……、ついにナナさんは、ボクの前に崩れ落ち、このボクの前に無防備な肢体を投げ出したのです! もうあなたの好きにして。そう言わんばかりに……。
と、いう具合に(?)、ナナ・テスカトリ、討伐完了いたしました。 なにかいろいろと表現がおかしなところがあるように感じたかもしれませんが、それはあなたの気のせいです。 さて、次は邪魔な恋のライバル、テオ・テスカトルでも退治してきましょうかね……。 |