この世で一番

たぶんこの世で一番苦手なタイプ。
はっきり言って、嫌いなタイプだ。
悪意もなく俺を責める。
悪気はないのに俺を追い詰める。
悪意があるならぶっ飛ばしたって誰も文句言わねえし、
悪気があるならそれが冗談だって俺は許しゃしねえ。

なのにあんたは、
金木犀の香がしたと喜ぶ。
彼岸花が怖いと言う。
山が色づくのはもうすぐだと目を細めて遠くを見やる。
俺が何を言ったわけでもねえのに、何を考えたんだか、
いきなり哀しそうに、俯いて言葉を切れさせる。

けれど俺は、
それにどんな言葉も返せない。
だから返さずに黙り続ける。
あんたがそのことで落胆するのを知っていて。
狼狽するのは百も承知で。

あんたがどんなに綺麗な人間かを見るたびに、
てめえがどんなに汚い人間かを思い知る。
道端の野良犬のことさえ案じるのを見るたびに、
動かないてめえの心の不具を知る。

腹が立って仕方ねえから、
後でどうなるかは承知の上で言ってやった。

「芸のねえ犬っころみてえに俺のあとついて回って、
あんたにプライドってもんはねえのか」

てっきり泣き出すんだろうと思ってた。
なのにあんたは、少し考えて。

「おまえの傍に置いてもらえるんだったら
プライドなんていらない」

いつもみたいに笑いやがった。

適いやしねえ。
俺の負けだ。
こんな俺といるために、犬呼ばわりされたっていいなんて。
俺にはそんな、強さはない。

だったらいっそ、
この世で一番綺麗なあんたが、
こんな俺をそれでも許してくれてるんだと、信じてみようか。
この世で一番綺麗な人を、
俺が独り占めしてみようか。
そうするために必要なものが何かは、もう分かってる。

たった一言。
言うだけでいい。
そうすればあんたはきっと、
今まで見たこともないくらい綺麗に笑ってくれるだろう。
それを見たいってだけでも、
言ったっていいかもしれない。

 

「俺もあんたが好きだ」

 

……ぅ甘ッ!!