帰りたい

辺りを見渡すと赤茶けた土が剥き出しになっている場所と
雑草が生い茂ってる場所とが入り乱れていた。
ふと考えてみる。ここはどこだ?なぜ、俺はここにいるんだ?
頭を振り目頭を押さえる。思い出せない。
もう一度、回りに目をやると そこには建物が並び
ありふれた住宅街のようでもあった。

「どうなっているんだ?」声に出してつぶやいてみる。
夢なのか? 俺は何をしていた?俺は何処にいたんだ?
現実なのか夢なのか・・考えてもわからない。

冷静に辺りを見まわして これは夢なんだと思う。いや、自分に言い聞かせる。
なぜだかわからないけど不安で 何かを考えていたかった。

「帰りたい」漠然とした気持ちが言葉になった。
何処へ帰るのか・・・それはわからない。

帰りたい場所。
なんの変わりもない日常?そこが帰るべき場所?
帰らなければいけない場所・・・・?

望むことはなにもない。ないはずなのに・・・。
いや・・望むこと・・それは

そう、ただ「帰りたい」だけ

昨日と変わらない今日がそこにある。 だから 「帰りたい」
どんな場所でもいい 今、いるべき場所に 早く 帰りたい

「おい?」
聞きなれた声に 意識をとり戻す。
俺の部屋・・・
「あ・・・」
「どうしたんだ?」心配そうな伊達の顔がそこにある
「いや・・・俺寝てたのか?」
「熱があるからな 頭痛くないか?」
「あぁ・・大丈夫だ」 とは言ったものの 状況が飲み込めていない
 「帰りたい・・って言ってたぞ・・・・」
「うん・・・なんか夢を見ていた気がする」
「ふぅ〜ん・・まぁ あんたが寝てるのって滅多に見ることないからな」
「そうか・・?」そう言えば 伊達の寝顔を見ていたことしかないかもなと俺は思う。
「帰りたい・・・か」声に出すつもりはなかったのに 呟いていた
「何処か、帰りたい所があるのか?」伊達に問われる
俺は首を振って
「いや・・そんな場所は・・・ないな」
「そうか?俺は、帰りたい場所あるぞ」
なぜか伊達は俺から目をそらし 横に視線を移して言った。
「・・・・?」
「あんたのいる所・・・それが 俺の帰りたい場所だよ」
伊達は立ちあがりながらそう言うと、台所に向う
「なにか・・食うだろう? 作ってやるよ」
俺は あっけにとられていたのか 言葉が出ない
何を言うべきか 頭が痛いせいじゃないと思うが
浮かばなかった。
「うまいもの食わせてくれるのか?」なんとか 話しを続ける
「俺が作ってやるんだ。まずいわけないだろう?」
伊達が言う。楽しそうに・・。
こいつはこんなに笑う奴だったか?でも、はにかんだような
そんな笑顔が 俺の心を和ませているのは 確かな感触だった。

「大体なぁ、研究だかなんだか知らないが 学校に泊まり込んだりしたのがいけねぇんじゃないか?」
「・・・・」

人といる事は苦痛だ 相手が 気にかけてくれる事はうれしいが
それ以上に自分が 自分でなくなり神経をすり減らしていく。
意識しないようにしても、確実に それは 俺の中にある。
その苦痛を感じずにいられる場所
自然に俺が俺である場所・・それが俺の帰りたい場所?
つまり・・こいつと同じで
こいつのいる所に俺は帰りたい?

俺は立ち上がって台所に立つ 少し頭が重い
伊達の後ろに立ち 抱きしめる
「おい?なにすんだよ 急に」
「こうしていたい」熱いものがこみ上げていた。
「嫌か?」
「あのなぁ・・苦しいだろ それに火ィ使ってんだからあぶねぇよ」
伊達は俺を解き放ち 正面から見据える
「どうしたんだよ?俺の作ったものが心配なのか?」
「そんなことない」
俺自身自分の言動がわからない 説明なんてできっこない。
伊達は作りかけの何かをそのままにして火を止める
「全く・・世話の焼けるやつだなぁ」飽きれたようにそう言って
「熱がさがんないんなら寝たほうがいいか」
俺を布団へと促す。
子供みたいだな・・・俺
「すまん・・・・」何してんだ 俺は・・。
「たまには あんたの寝顔ゆっくり見るのも良いな。 ほら 寝ろよ
寝れねえんなら 本でも読んでやるぜ?」
伊達は楽しそうに言う。
俺の帰りたい場所は・・やっぱり こいつの笑顔のある所なのかな
そして、俺の意識は遠のいていった。


(Fin)

布教着実に成功中?

こちらのお話の「帰りたい」という不意打ちの思い。
これは私が実体験として何度か感じたことがあるもので、
ちょっと他人事でないくらい、入り込んで読ませていただいたのだったりする。
己が本当に「帰る」場所……。

たまにはセンクウさん寝てても良いかななんて思いつつ
やけに優しく素直な伊達さんが出来あがりました(爆)

↑こちらの青文字はやまっち様のコメントです。
ほんわと優しいだけでなく、切ないテーマを秘めたこのお話、
本当にありがとうございました!